歩岐平(ほきひら)

歩岐は「ホキ」と読み、険しい崖の意である。古語であり、どれほど遡れるのか知らねど『山家集』に「ほき」「ほきぢ」の用例がある。「ほき」を「崖」と解釈するのはまだしも、「ほきぢ」を「山腹の険しい道」とするのは具体性に欠ける。

「歩岐」が崖でよいとしても、「平」が平らとすると理解が難しい。百聞は一見に如かず、実際に二つ現地へ行って周りをぐるりと見まわしてきた。どれも崖が川へ落ち込む厳しい地形で、交通には難所になってきたらしい。振り返ってみると、どちらも難しいには難しいが皆何とか通れることに気づく。私が知る限り歩岐平という小字は郡上で五カ所ある。

1 八幡西乙原 歩岐平

2 八幡亀尾島口 歩岐平

3 八幡有坂坪佐 保木平

4 美並上田 歩岐平

5 美並高砂 歩岐平

不思議なことに、ほぼ全て長良川沿いに並んでいる。まだ大和は調べていないし、又通称地名があるやも知れないので大体このような様子だということで勘弁してもらいたい。

最初に訪れた西乙原の歩岐平は長良川へ直接落ち込む崖地と言ってよく、周りに田畑をやっている所は確認できなかった。少なくとも人家や田畑があると予想していたのでショックを受けてしまった。この辺りは「平」地名が多い所で、歩岐平から「樫ヶ平」を経て「西平」「八応地平」まで隣接し、かなり険しい山が続く地形で人家が全くないそうだ。

歩岐平については、こういうこともあるかなと予想はできていた。この厳しい歩岐にも県道が通っており、古くから道路があったらしい。この場合は田畑を開発したという意味ではなく、歩岐を抉って通路を開いたと考えることもできる。ところが「樫ヶ平」「西平」「八応地平」はどう理解すればよいか途方に暮れた。「平」自身に険しいという意味が隠されているのか、それとも第三の解釈が可能なのか。

私は「八応地平」に着目してみた。「八応地-平」と見てよいだろう。「八応地」は「八王子」が零落した表記だろうから文化地名である。この平が続く尾根筋に人が通ったのではあるまいか。これが藤巻山や八王子峠から高賀山へ続いているとすれば、立派な尾根道があったことになる。

今のところは妄想に近いが、歩岐平が歩岐を穿って通路をつける事を示すのであれば「歩岐開」と解せそうで、これがまた「樫ヶ平」「西平」「八応地平」の解釈に生かせるような気がしている。

                                            髭じいさん

『山家集』「岩の角踏むほきのかけ道」

『山家集』「吉野山 ほきぢ傳ひに尋ね入りて」

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