会津(カイツ)

晩年になると、自分の仮説が破綻するのを見たくない気分になったりする。サイエンスだから仕方ないとしてもね。私は前に「垣内(かきうち)」が開発地名として「カイチ」「カイツ」「カイト」へそれぞれ音変化したのではないかと想定したことがある。

「カイチ」については想定内としても、「カイツ」「カイト」はそれでは説明しにくい点が出てくる。今回は「カイツ」に焦点を当て、「カイト」はいずれ再度ここで取り組みたいと考えている。

「カイツ」を音変化と考えたのにも根拠がないわけではない。実際に郡上で「垣内(かきうち)」を「カイツ」「ガイツ」と呼ぶ例が六七例ある。

旧明方気良に「上垣内(カミガイツ)」、同畑佐に「小瀬垣内(オゼガイツ)」、同小川に「脇垣内(ワキガイツ)」「西垣内(ニシガイツ)」があり、白鳥阿多岐に「上小垣内(カミコガイツ)」、大和に「州垣内(スガイツ)」などがある。また例えば「都」が「都内(とない)」「都合(つごう)」と言う風に読まれており、タ行が音変化することがある。

だがよくよく考えて見ると、「垣内(かきうち)」が「カイツ」になるには距離があるようにも感じられる。これをどう理解するか。

「カイツ」をワードで検索すると「海津」「貝津」と変換される。郡上においては表記が非常に多く整理しないと頭に入らない。

旧東村を含め郡上では「会津」が多く、「廻津」「迴津」「開津」などがある。「ガイツ」として「街津」「谷津」などもある。これらは全て「つ」に「津」が当てられる例で、稀に「廻通」として音借の「通」が使われることもある。

「津」は『古事記』で「相津(あひづ)」といふような例もあるし、万葉仮名では訓仮名として使われているようで、それほど古い用法ではないかも知れぬが、それなりに用例がある。従って「津」を仮名とみることもできそうだ。ただ私は、これほど「津」が好まれていることから、何等かの義を意識しているのではないかと考えてみた。

『説文』で「津」は「津 水渡也」(十一篇上二147)だから「渡し場」の義だろうし、その他『書經』に「無涯際」(微子)とあり「水ぎは、岸、がけ」の意味がある。

郡上だけでも「〇〇会津(カイツ、ガイツ)」とされる小字は五十例ほどあり、凡て踏査したわけではないが、「〇〇谷」と呼ばれるような小河川がその地区の主要な川に出合う地区が多いように思われる。つまり地形地名ではないかというわけだ。

これを語源とまでは言えないとしても、これら「会津」と呼ばれる地名が少なくとも川の出合いを意識されていた時代のあったことは確かだろう。これが一般化してから、「垣内(かきうち)」が「会津」に引っ張られて「カイツ」と読まれるようになったのではないか。                                               髭じいさん

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