麻生(あさふ)

前に郡上の洲河(すごう)などを検証した時、原形を「菅生(すがふ)」ではないかと考えたことがある。長年この反例を求めてきたが、響くものが無いので、今でも変わらない仮説だ。

今回も他の用例を引いて、少しばかり揺さぶってみよう。用語の構成やら音韻やらで最も比較しやすいのが「麻生」だろう。

「菅生(すが-ふ)」「麻生(あさ-ふ)」とみてよい。「生(ふ)」は植物がまとまって群生している義である。「生」は地名でも多様に使われており、ややこしいので今回は深堀りしない。

さて植物名としての「菅」と「麻」だが、分類や植生について不案内なので、音韻のみ取り上げる。悪しからず。前者は単独なら「菅(すげ)」だし「菅笠(すげがさ)」でも「すげ」だが、「菅田(すがた)」「菅原(すがはら)」「菅生(すがふ)」など連語として使われる場合は、一般に「すが」へ変化する。

従って「菅生(すがふ sugahu)」から「洲河(すごう sugou)」へは、「ahu」から「ou」へ変わったことになる。

後者の「麻生」は『常陸國風土記』行方郡条に「麻生(あさふ)里」と見えるし、古くからの用例とみてよかろう。

「麻生(あさふ)」から「麻生(あそう)」へは、「(あさふ asahu)」から「(あそう asou)」なので、やはり「ahu」から「ou」へ変化しており、「菅生(すがふ)」と同じである。

これらは「h」が消えやすい音で、すっかり無くなったりもするし、この場合のように母音変化を起こすこともある。又「w」へ退化したり、拗音化したり、とにかく厄介である。

「植物名+生」の形は他にも、「葦生(あしふ)」「粟生(あはふ)」「竹生(たけふ)」「淺茅生(あさぢふ)」などがある。それぞれ音変化が面白いので機会があれば検証してみたいが、今回は「葦生(あしふ)」を少しばかり取り上げる。

『和名抄』伊豫國だかに「味生(あじふ)」という地名があり、私は「葦生(あしふ)」が原形ではないかと考えている。萱だの葦の群生は珍しくないし、「味」では意味を取るのに一苦労なので、音変化したものという考えに至る。

これからすると岐阜県にある「味間(あじま)」「阿自賀(あじか)」などもこの解釈を適用できそうな気がする。これらは全て大した根拠がなく単なるアイデアに過ぎないが、何だか捨てがたい気がしている。

かくして地名を調べていると、至る所で音変化が起こっており、歴史学のみならず言語学や音韻学の有力なフィールドだと感じられる。これらは実例としてあげられるので、有無を言わせぬ力がある。                                              髭じいさん

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