セビガホキ

これが何のことかすぐ分かる人はすごい。郡上小那比にある小字だと言えば、「ホキ」が「歩岐」で川などに迫っている大きな岩だと郡上の人なら見当がつくかも知れない。それでも「セビ」はどうかな。

私は糸口さえ見つからず、皆目分からずにきた。郡上方言に馴染んできたからか、ここに来てやっと仮説らしきものが生れてきた。

「セビ」は幾つか調べて見ると、

1 セミ、

2 隠語として靴、

3 送り火などの施火

の三つが考えられる。何となくであるが、私は1の「セミ」と3の「施火」のどちらかだろうと独断している。

セミは「蝉(せみ)」「蜩(ひぐらし)」の類で、『新撰字鏡』に「世比」とあり、古くから「セヒ」「セビ」と呼ばれてきたらしい。又施火はホキで事故に遭ったものを悼んで火を手向けたとすればありそうだ。

伝承や民話から特定することが難しいので、私のやり方で迫ってみたいと思う。

前に、和語でも漢語でもバ行とマ行は近しい関係にあって、相通じることがあると書いたことがある。根拠が気になる人は2023年9月18日付けコラム、風呂(2)を参照していただきたい。その時は主として漢語を取り上げた。今回は和語、特にこの地に関連するものを示して傍証したいと思う。

八幡町五町、同中坪に「セバイワ」という小字があり、「狭岩」が当てられている。この場合「セマ」が「セバ」と呼ばれていることになる。又、和良三庫に「口(くち)セバ」という小字が二カ所あり、これも「口狭」と解される。これらは「ま」が「ば」と呼ばれることを示していよう。

この他、郡上方言で「寒い」を「さぶい」、「山女魚(やまめ)」を「やまべ」と言うことがある。いずれも「む」を「ぶ」、「め」を「べ」とするので、マ行とバ行が通じていることが分かる。

これらからすると、郡上でも「セミ」を「セビ」と呼んでいたことが十分に考えられる。

施火は、地理としても民俗としても何らおかしな点は感じられないが、仏教に関連する地名は他地区にあっても、「火」そのものを使う例のないことが気にかかる。また「施」は音で、「火」が訓である点に少しばかり違和感がある。

と言うような訳で、「が」を連帯の助詞とみて、「セビガホキ」を「セミの歩岐」と解したい。これにしても、このホキの周りでセミが大量に繁殖していたのか、かつてセミに関する何らかの伝承があったのか分からない。現地踏査もままならない現状で、歯がゆい気分である。                                               髭じいさん

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