カタカナの地名

カタカナは漢籍や仏典を読むのにテニヲハや活用語尾などを送り、和語として読み易くするために使われてきた。近世、近代になると、ピアノやカルテなど、ヨーロッパなどの言語を借用するのに使われることが多くなった。これらの他にも、既に伝承が失われ、語義のはっきりしなくなった地名に使われることがある。

片仮名の地名と言えば、地元の人でさえその語源がはっきりしなくなったものが多いので、迂闊に取り上げることすら憚れる。だが郡上では小字だけでも百カ所前後あるし、通称地名まで入れれば相当な数にのぼるだろう。このまま放っておくわけにもいくまいし、見当のつくものを拾っていくのも何かの役に立つかもしれない。前置きが長くなった。今回は二つ。

西和良の洲河に「カクマ」という小字がある。調べて見ると水辺の称で、東日本の地名に多く見られ、角間、河熊、鹿熊などを当てるそうだ。

これまで地名ではないが、「河原(かははら)」が「河原(かはら-かわら)」、「野原(のはら)」が「野良(のら)」になるなど「は」が消える例を示してきた。

また郡上のみならず板取の地名でも「河辺(かはべ)」が「河辺(かべ)」、「川上、川浦(かは-うれ、おれ)」が「川上、川浦(かおれ)」になる例を取り扱ったことがある。

してみるとこの「カクマ」も、上にあげた義からして、「河隈(かは-くま)」に辿れるのではなかろうか。「隈(くま)」は河川が湾曲して奥まった所と解してよさそうなので、やはり地形地名と考えられる。「河辺(かべ)」と比べて見ると、郡上で「カクマ」は単なる水辺ではなく、川の奥まった所とする方がよさそうだ。

「河辺(かべ)」「河隈(かくま)」でよいとすれば、和良の「鹿倉(かくら)」もまた「河倉(かはくら)」とみてよいかも知れない。この場合の「倉(くら)」は「狭倉(さくら)」「くら宍(かもしか)」などの「くら」で、大きな岩場と言う意味である。他も考えられるから、一つの案として書いておく。もう一歩踏み込みたい人は2017年6月26日付けのコラムを参照方。

西和良の美山に「クロノタ」という小字がある。他の地区に「黒ノ田」と表記するものがあるので、「クロノタ」の「クロ」は「黒」なのかなと考えたこともあったが、どうにも腑に落ちない。

同じく西和良の入間(いるま)に「クロボタ」という小字がある。「ボタ」は山間地で田畑をつくるための畦を支える傾斜面で、この場合も「クロ」は「黒」と解することもできるが傾斜面が黒というのはやはり気が進まない。

私は、郡上方言の「クロ」「グロ」に当たるのではないかと考えている。「クロ」はもと田畑の境界たる「畦(あぜ)」の義であったが、後に境が強調されて辺境、はずれという義が加わったと思われる。つまり「クロノタ」は「はずれの田」で、遠くにあって条件の整わない田だったのではあるまいか。                                               髭じいさん

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