之繞(しんにょう)
「しんにょう」は漢字の部首で、頭に思い浮かぶ人が多いと思う。知り合いが之繞(しんにょう)を上手に書けないとつらつら不満を述べていた。そう言えば私もかつては苦手にしていた気がする。
しんにょうが何画かを正確に言える人はすごい。ややこしいので整理をしておくと、『説文解字』『玉篇』では「辵(チャク)」の形となっており、篆書体をもとにした部首である。『説文』では「彳」「止」の会意とするので七画と解している。「彳」は行く、「止」は足の義で、合わせて行く、往くの意である。
これがどのように四画になったのかは不明なところもあるが、凡そ隷書体が関連するように思われる。隷書では二点しんにょうに加え、三点しんにょうに作るものがある。この内、二点しんにょうが楷書体で定着してきたのではないか。
楷書体にしても、「辶(二点しんにょう)」「辶(一点しんにょう)」があって画数が異なっており、ややこしい。私としては前者を四画、後者を三画と理解している。
清代に編まれた『康煕字典』では「辶(二点しんにょう)」の形である。本邦でも明治になってこれを採用し、四画の部首として定着した。戦前の書物まで殆んど「辶(二点しんにょう)」が使われていたのは、『康煕字典』を基準にしていたからだろう。
「辶(一点しんにょう)」は唐代になって一般に使われた書体で、以来習字では現代まで継続して使われている。近ごろ本邦では、いくつかの例外を除いて「辶(一点しんにょう)」に統一され三画になっている。これは敗戦後のことで、簡略化にのっとり三画になった。それなりに定着してきたが、常用漢字を加える際にフォントの関係から、一部に「辶(二点しんにょう)」が残ってしまったということらしい。
今ワードの字書を見ると「辶(二点しんにょう)」「辶(一点しんにょう)」が入り乱れている印象で、まことに煩雑である。「辶(二点しんにょう)」が新たに加えられてきた常用漢字となると、何らかの対策をたてる必要に迫られている。
因みに「しんにょう」の和名は、「辶(一点しんにょう)」の形が「之」に似ているため「之繞(シニョウ)」と名付けられ、音便の「ん」が加えられたとされている。またこの「之」にしても簡単ではなく、『説文』では四画の部首、また『康煕字典』及び『大漢和』は丿(へつ)部三画で計四画。『漢語林』では丶(てん)部二画で計三画となっている。 髭じいさん