ナギ
郡上では焼き畑をナギと呼ぶことが多い。飛騨地区においても同じである。これは草木を「薙ぎはらう」「薙ぎ倒す」の「薙ぎ」に由来しているようにみえる。焼き畑を始めるにあたって、まず最初にやる作業がその名を代表していることになる。
この辺りでは秋に刈りはらうことが多かったという。春から夏までの成長期には根から大量の水を吸い上げる。葉が落ちる頃にもなると、水分が少なくなって切り時である。私は若い頃、シイタケ栽培をしていたことがある。原木は切り時によって大きな影響を受ける。水分が多いと椎茸菌の成長が遅いだけでなく雑菌がつきやすい。これで痛い目に遭ったことがある。
郡上白鳥石徹白に「冬ナギ」という字があるので、更に遅く雪の降り始める前後に木をなぎ倒すことがあったのかもしれない。
ナギ地名をもう少し細かくみていくと、益田郡小坂町岩崎の「河原ナギ」、同上原村夏焼(ナツヤケ)の「石垣ナギ」など、なぎ倒す場所を示すものがある。又栽培したものを示す益田郡金山町福来の「荏ナギ」、益田郡小坂町小川の「むぎなぎ」、郡上郡和良三庫の「アヲ薙」などもある。
最も多いのが焼き畑を主宰する個人名ないし屋号のついたものである。
〇 大野郡萩原町山之口 五郎ナギ
〇 益田郡小坂町 六兵衛ナギ 作兵衛ナギ
〇 益田郡小坂町小川 弥蔵なぎ
などだ。これらは主として家単位で行っていたことが想定できる。これらに対して規模の大きなものに、
〇 益田郡上原村蛇之尾 寄合梛(ヨリアヒナギ)
〇 益田郡金山町渡 大ナギ
等がある。数家族ないし村中総出で入会地などの木を倒していたのだろう。
「ナギ」の語源がどれほど遡れるのか不明だが、私は吉城郡河合村角川にある「奈木(ナギ)のかんど」という小字に注目している。この場合の「木」は乙類の「き」である。仮名を整理することで、地名のみならず焼き畑にも時間の軸を据えられるかも知れない。徐々に説明していきたい。 髭じいさん