難解地名と木
今でも本邦は木の国と言ってよかろう。都会の真ん中ではコンクリートが中心だとしても、民家は木を素材にすることが多い。地名にしても木や草の名が使われていることも珍しくない。
美濃や飛騨で、最も多い木の地名は何だと思われますか。地区によって偏りがあるとしても、杉や松等と共に栃(とち)が入ることは間違いない。これらに深い謂れがあるのは勿論だが、今回は旧丹生川村を中心に難解なものを取り上げてみる。
1 まずは「エンジウ谷」(旧丹生川村駄吉、同森部)、「エンジャ谷」(旧丹生川村折敷地(おしきじ))を見ていただく。如何ですか。
何とかたどり着いた候補が「槐(エンジュ)」ということで、それほど自信はないけれども、徐々にこれで解釈が固まりつつある。終末の「ウ」「ジャ」は想定内の変化で、「ジュ」とみてよかろう。
ちょっと理屈を言うと、「う」は半母音の<y>が消えた形であり、「ジャ」は、「郡上」が「グジャウ」から「グジョウ」へと変化するのと同系に見える。この解は実際に踏査した結果ではなく、あくまで仮説であることを確認しておきたい。
「槐(エンジュ)」は中国北部を原産とするマメ科エンジュ属の落葉高木で、日本が原産ではないらしい。
2 次は「子ズ尾」(旧丹生川村大谷)である。「子」は子丑寅の「ネ」で、「子ズ尾」は「ネズ尾」と読む。これもまた分かりずらい地名で、ネズミに関連するのかなと考えてみたけれども手ごたえがないし、あぐねていた。
これも又木名とすると候補が無いわけではない。「𣜌(ねずこ、くろべ)」である。建築材として有用で、友人宅では長押(なげし)で使われている。年月が経ち、濃い茶色になって中々風格があった。
3 「ほうそ尾」(旧宮川村)は「はうそ-ははそ」で、「柞(ははそ)」ではないか。「柞」は楢(なら)と橡(くぬぎ)を総称することがある。
4 更に「クノ木平」(旧丹生川村大萱)、「クノキケサコ」(旧丹生川村柏原)である。「ノ」と「ヌ」が通じることがあるし、どちらにも「木」「キ」が付いているので「クヌギ」ではなかろうか。
「橡(クヌギ)」はブナ科コナラ属の落葉広葉樹で、栃の実などと同様、このどんぐりも古くから食糧に使われていたと思われる。どちらもそのままでは生食できないが、上手にあく抜きして食べられるようにしたのだろう。
「橡(クヌギ)」ならそれなりに知られた種としても、「槐(エンジュ)」「𣜌(ねずこ)」「柞(ははそ)」となると一般にはなじみが薄いかもしれない。
私は「𣜌(ネズコ)」の「コ」、「橡(クヌギ)」の「ギ」、「檜(ヒノキ)」「槇(マキ)」などの「キ」という終末音が気になっている。 髭じいさん
