床の間

 私の書斎は、壁の一部がは剥がれ落ち、午後の陽射しが僅かに差し込むだけの暗い六畳間である。小さな床の間には、本棚が居座り、あふれたアルバム や包装紙などが、雑然と置かれたまるで物置きの棚のふぜい風情である。
 法務でいろんな家を訪れることが多い。背にする床の間には、美しい花が生けられ、軸が掛けられたいかにも豊かさとゆとりが感じられる家が多くなった。でもその豊かさが度を越えているように、海外旅行のみやげ物であろうか、お祝に贈られた品物だろうか、つぼ壺のたぐ類いから剥製、はては刀剣に至るまで、様々な物の展示場と化した床の間もある。(私の書斎よりはましだが・・・。)
 ところで、本来床の間はご本尊をお掛けし、仏華を生け、香炉と燭台を置く、つまり三具足を配した仏間からきている。江戸中期頃より貴族の持仏堂を模した仏壇が作られ、 お内仏として床の間から独立した。その名残が床花であり、香炉であるといわれる。 その家の主人が感銘を受けた言葉であろうか、一幅の軸と四季折々の花が生けられた床の間に出会うとホッと心が和む。そのような家は、お内仏の荘厳(おかざり)も作法にかなっていることが多い。
 お札から写真、位牌までもが所狭しと並んでいるお内仏では、一体何が尊いことなのか判然としない感がある。お内仏をはじめ、床の間を見ればその家に住む人の精神生活の様がうかが窺えるといっては言い過ぎだろうか。とはいっても、人様の床の間をとやかく いう資格は、今の私 にあるとは言えない。

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