福島の温泉、恐るべし。

 突然、温泉に行ってきました。我が家の行動はたいてい突然なわけですが、まあ、手術後の湯治ってことで、みたいな言い訳をしながら出かけていきました。コドモが小学校なんぞに入ってしまうとおいそれと休ませるわけにもいかず、今まで僕たちのような浮き草稼業の特権だった平日突然旅行は難しくなってしまいました。世間の休日と同じ日に出かけると、やはり混んでいたり休日料金などという不思議な仕組みに驚かされたりします。これから就学中の家族旅行はずーっとこうなのか、と思うとすこしへこみますが、まあこれが人生ってものでしょう。
 福島県の磐梯熱海という温泉に行ってきました。かれこれ数十年ぶりでした。昔入ったお蕎麦やさんが劇的に美味しかった記憶があったのでそこに寄りました。劇的ではなかったものの美味しかったのですごく大量のそばを食べました。旅館のゴハンもあることに気づき少し後悔しました。
 旅館に着いて、コドモとさっそく辺りの虫事情の調査に繰り出しました。東京は蒸し暑い感じでしたがさすがに東北の温泉地は肌寒いほどです。モンシロチョウがちらちらしてるくらいでめぼしい虫は見あたりません。しばらくうろうろしていると不気味なモノを見つけました。ススキの枯れ草のてっぺんに毛虫がついていました。おそらくジャノメチョウの仲間の幼虫だと思われるその毛虫に触ってみると、動きません。変だなあと思って良く見ると、毛虫はススキの枯れ草につかまったまま死んでいました。今にももこもこと動き出しそうな風情で死んでいたので、僕は思わず「生きたまま死んでいる。」とつぶやきました。コドモがこの言葉に「なにそれー!」と反応してけらけら笑っています。気がつくとあたりの枯れ草に同じように死んでる毛虫がいっぱいいます。「うわー、ここにも生きたまま死んでいる。あー、こっちも。」などとしばらく二人で大騒ぎをしていましたが、考えてみれば妙な出来事ではあります。もしかすると殺虫剤をまかれて苦しんだ毛虫が逃げ場を求めて上へ上へと登って、草のてっぺんまで来てそこで力尽きた姿なのかも知れません。生きたまま死んだ沢山の虫達に囲まれて急にぞぞめいた気分になったのでうわー!っと叫びながら逃げ出しました。コドモも悲鳴を上げながら走り出します。少し怖い、はとても面白い、も含んでいるのでなんだか笑いながら走って行きました。
 この日は他にも死んだイキモノを見つけました。マルハナバチの死骸を見つけては「おー!死んだまま死んでいる!」とかカエルのかちんかちんに干からびたミイラを見つけては「カエルのまるやきだー」などと、叫びながらそれらをきっちり採集して行く変な親子でありました。旅館の庭でもそれを続けていたら「あんたたち、うるさい!」とお母さんに怒られてしまいました。
 何度も温泉に浸かったり、美味しい夕食をいただいたり、退院後初めての日本酒に酔っぱらったりしながら楽しく一日は終わっていったようです。
 一夜明けると温泉の効能が絶大であることに気付きました。僕の右胸にはちいさなものなのですが手術の跡が三カ所あって、そこがまだ腫れていて少し痛かったりしてたのですが、朝起きると明らかに腫れが引いていて痛みも少なくなっていました。福島の温泉はやるときにはやる、と聞いていましたが、「どうだ」と言わんばかりの効能であります。そういえば昔、「私は羊」というアルバムのジャケット撮影を、同じ福島の高湯温泉というところで行なったのですが、間の悪いことに僕は顔や体に湿疹をでかしていました。肝心なときにこれかよぉ、と腐っていましたが撮影前日に泊まった旅館の温泉に入ったら一晩で治ってしまった、ということがありました。二度までも実力を見せつけてくれた福島の温泉、ここはやはり敬意を込めて「恐るべし」と言うべきでありましょう。
 さて今週末はいよいよ照明寺さんでのライブです。病み上がり一発目なので少し不安もありますが、家で歌っている分には復活した、と思っていいようです。楽しい一日になるようにがんばります。

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