少年H

妹尾河童の自伝的小説「少年H」を読んだ。昭和5年、神戸で生まれ、17歳で旧制中学を卒業し働き出すまでの物語である。H少年が生き生きと描き出されていて、上下二巻の大著を24時間で読んでしまった。妹尾河童という人物を不覚にも知らなかった。舞台美術家のパイオニア的存在であるのだが、それよりも好奇心一杯で、H少年がそのまま大人になった様な人柄で、いっぺんにファンになった。物語は、キリスト教徒で、小さな洋服店の家に生まれたH少年は、何事にも興味をもち、元気いっぱい遊んでいる絵の好きな悪ガキであった。時代はどんどん戦争に突入していく。好きな本が読めなくなる。宣教師のイギリス人や、アメリカ人が帰国していく。少年には彼らが「鬼畜米英」とはどうしても思えない。学校で教えられる事が、何か違うような思いになる。戦況はやがて敗色が濃くなり、空襲の中を逃げ惑いながら、新聞の報道や、大本営の発浮?Mじられなくなっていく。その頃には神戸二中へ進学し、さまざまなタイプの友人や、先生に出会う。そして終戦を迎え、それまでの学校の姿が一変してしまう。軍国教育も変だと思い、また、にわか民主主義もおかしいと感じてしまう。こうした多感な姿が生き生きと描かれている。「戦後」という言葉も今や死語同然な時代になった。これは貴重な記録である。またそれ以上に、一人の少年がいっぱい経験を重ねながら成長していく物語として、すぐれた作品であると思う。今子育て真っ最中の親たちに、いや、むしろ中高生諸君に読んで欲しい。

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