レコーディング大詰め

 レコーディング何日目になるのだろう。怒濤のてんてこまいの中で、一瞬一瞬をこなしていく日々が続いている。今日、昼間は小峰と僕の「うたいれ」。小峰は「生まれてはえいえんのわかれにむかうわたしたちのために」という長ーい題名の歌を成し遂げた。僕はと言うと、「Wonderful Life」を一回歌ったところで、「ああ、今日はだめだ。」ということがわかってしまい、他の曲の楽器を入れた。この時期になると体調との相談が必要になってくる。喉がへたったら、ベース。指のまめがつぶれたら、ギター。それもダメなら他の楽器。と何かやれることを探しながら、星取り表を埋めていくのである。星取り表は縦に曲目、横にその曲に必要なセッションを並べた表である。ひとつの作業が終わるごとにひとつづつ升目が埋められていく。全てが塗りつぶされた時アルバムは完成している、というありがたくもおそれ多い「表」様なのである。かれこれ七割方升目が埋まってきた。もう大詰めということだ。
 5時から「Gypsy’s Song(仮)」のホーンを録音する。ホーンアレンジをチューバ奏者の関島さんにお願いしていた。まずは関島さんのチューバから始められた。「不思議なアレンジをしました。」というだけあって、何本か重ねられた音を聴いても先が全く読めない。いったいこの曲はどういうことにされてしまうのだろう。耐え難いまでの不安が訪れるのだが、ここが我慢のしどころだ。数年前の僕ならば耐え切れずに、まかせたはずのアレンジを自分の思う方向に修正してしまっていたところだ。でもここ何回か完全にお任せしていい結果を得ている。預けたモノは預けきってしまうのが良い、ということが僕にもやっとわかってきた。優れたアレンジャーが施したアレンジは僕が思いつくそれを凌駕していて、全貌が見えるまでは僕は静かに黙っていることが肝心なのだ。関島さんのアレンジも然り、であった。チューバに始まり、トロンボーン、ホルン、アルトサックス、クラリネットが重なって、やっと僕には理解が出来た。僕の思い描いていた世界を遙かに越えた、なんともアカデミックな空間が構築された。「ああ、途中で口を出さないで良かった。」というようなモノである。こうして何人もの優れた才能のチカラでもって新しいアルバムは僕が予想しなかった高みへと昇っていく。