おかえし

話は大分前に遡る。今年は我が家の富士柿が豊作で、処分に困るほどであった。気候の関係か、早くから熟したものがあり、いくつも朝食で食べてきた。
数が多いので近所に配ったりしたが、それでも余る。という訳で、いつも仲良くしてもらっている長老に幾つかおすそ分けをしていた。干し柿も食べるという話なので、また幾つか持って行った。
それから数日後、孫の滞在中のことである。長老夫婦が私と孫を見つけ、「孫に食ってもらってくれ」と、どうやら自家用らしい真新しい箱に入ったクッキーを我が家に持ってきた。自家の庭にある柿の木に実がなって、ただ食べきれないから持って行っただけなのに、わざわざ買って来たものを渡すのですっかり恐縮してしまった。
そこで私は、そのままお返しするのも気が引けるので、半分ずつにしようと考えた。
ある日、丁度半分に分けて、孫を連れてお宅に伺ったのである。お礼を言って穏やかに終るはずだった。奥さんが対応してくれた時に、少しまずいかなとは思ったが、事情を話して半分お返ししようとした。
ところがである。奥さんはとんでもないという顔つきで、「そんなことはいかん」と頑強につっぱねた。ここでは私も引き下がれない。「申し訳ないので、半分を受け取ってくれ」と主張し、何回か押したり引いたりした。敵もさる者、クッキーを受け取らないのみならず、さらに家にあったお菓子を孫に与えようとする。
どうやら、ここらあたりで私は敗戦を認めざるをえなくなった。「半分ずつ」と考えたのは何だか浅知恵で、子供が好きな御夫婦の気持をもっと汲み、大人しくしているべきだったかもしれない。
後でゆっくり考えてみると、中々よい戦いであったが、孫を連れて行ったのが主たる敗因であるという結論になった。