すきま風
記憶に間違いなければ、この家は明治の初年に建てられたものである。古い家の事だから、少々隙間風があっても文句はいえない。
私は、この家の土台の構造が気に入っている。今風にコンクリートで基礎をうったものではなく、しっかり土を突いて固めた上に台となる石を置き、その上に柱を立ててある。これは、この辺りで幕末から続くつくりだという。
土をつくといっても、礫や小石を混ぜ、適度な水分を加えればより強固にしまる。地盤の固いこの地方ではこれで充分な強度が得られる。
また、郡上は雨や雪が多く、風がそんなに吹かないから、どうしても湿気の対策をとらねばならない。しっかりした基礎は風通しが悪くなり、かえって家の寿命を縮めることになる。石の上に柱を置き、高床にすることで風を通し、木の腐りを防ごうとしているわけだ。少なくともこの工法が江戸時代に遡れることは間違いなく、風土に根ざした叡智の結晶であっただろう。
この家は商家らしく、元々は二階で繭を飼っていたようだ。従って、風通しをよくしなければならないこともあり、天井は板が一枚敷いてあるだけで、後になってその上に畳を敷いたものと思われる。
長年の雪やら何やらで老朽化が進み、建てつけも悪くなっており、障子も真っ直ぐ立っていない。
夏場であれば、川風が家の中を通り抜け、昼寝する時など誠に気持ちがよい。だが、厳冬期になると、四方から容赦なく冷気が入ってくる。心の隙間ほどではないとしても、やっぱり寒い。まだ子供が小さいころは目張りを結構やったが、今は横着している。江戸時代の風が入ってくると澄ましているわけにはいかないし、気合で乗り切る自信もなくなってきたから、またぼちぼち対策を考えていかねばなるまい。