オニヤンマ

私は子供の頃からトンボが好きで、中でもオニヤンマとギンヤンマに憧れていた。だがしっかり採集して保存するわけでもないし、昆虫図鑑を見るわけでもなく、ただひたすら追いかけるばかりだった。
私の孫はすでに五歳である。彼は昆虫といってもカブトムシやクワガタに興味があり、それらの種類は結構知っている。だが、町の近郊では適当な林もないし、時期も限られているから、なかなかそれらを捕まえることは難しい。そこで二人が虫取りに出かけても、トンボや蝶、バッタなどが中心になってしまう。どうやら、彼が私の趣味に付き合ってくれている意味もあるようだ。
彼の気持ちとは別に、私はトンボとなると我を忘れて集中する。網は一つしかないから、私は彼から網を取り上げ、じっと息をひそめる。前にも書いたが、トンボを追いかけてもスピードが速すぎてとても捕まらないし、危険を察知すると高く舞い上がってしまう。彼らが近づいてくるのを待つのである。
この間、モリアオガエルの繁殖で知られる愛宕公園の池で、オニヤンマを捕まえた。幾ら好きだと言っても、この歳になって一人で虫取りには出ないから、無論孫と二人で出かけた時の話である。
彼は私ほどには感激していなかったようだが、その大きさにしり込みする様子が見えた。私はヤンマが池などを周遊する癖を知っていたので、足元のしっかりしたところで待ち伏せし一振りで生け捕ったことには彼も感心してくれたようだった。
これを機会に図鑑で調べてみると、学名にシーボルトの名が入っており、なぜか誇らしい気分になった。また成虫になるまでおよそ五年もかかるそうで、十回も脱皮するという。なるほど、トンボの王様である。
皆さんは、トンボの前で指を回して捕まえようとしなかっただろうか。私は一度もしたことがない。しかし、石を紐にくくりつけて振り回したり、指をぐるぐる回すのもトンボ捕りには有効な方法だと云う。