チーズ点描
如何にも題がありきたりだ。私のチーズ史をたどるだけでも半世紀にわたるから、まじめに書けばある程度客観化できるかもしれないが、どうしても紙幅が足りない。そこでいつものように幾つかを点描するに留める。
私は、当時人口十万あまりの都市で生まれ、底辺に近い環境で育った。いわゆる母子家庭というやつで豊かではなかったが、母親の方針からか、食生活は食べ盛りでもさほど不自由しなかった。母親が昼間仕事に出ているので、発売間もないインスタントラーメンを自分で作って食べていた。
始めてチーズを食べたのは、中学生の時だったような気がする。石鹸を食べているようでなんだか味気がなかった。まずは、ほろ苦い出会いだった記憶がある。食べ慣れておらず、品質がよくなかったせいもあるだろう。わたしの年代で、私のような育ち方をしている人なら、似たような出会いをしている人が多いのではないか。大学に入るまでは、おいしいものとは考えていなかったと思う。
大学は京都で、一回生の夏ごろまとまった奨学金が入り、のぼせてしまったことがある。髭をのばし、ダンヒルのパイプで香りの良い葉をふかしていた。チーズもデパートで手に入れた割合品質の良いものを食べていたので、そのあたりで、なるほど美味いものだと分かってきたと思う。
ところが、どうゆう風の吹き回しか田舎に住むようになると、内国産を食べるほかなくなった。しかし品質がどんどん上がってきたからだろう、不自由を感じることは殆んどなかったのである。それでもたまに都会へ出るとデパートへ行って、チーズを物色することが多かった。中でも、ブルーチーズへ目がいったものだ。
還暦を過ぎて、孫とともに、スーパーへ行くことがある。酪製品コーナーへいくと、相当な種類が並んでいる。値段も手ごろで、いつものもの以外にも、新製品が出ていないか探ることが多い。
そうそうこの間、柔らかくて、バニラ味のチーズケーキのような風味をしたものを手に入れた。デザートチーズという分野があるのかどうか知らないが、しっかりしたメーカーが出しているので、少々驚いている。