蛇と龍

随分昔の事ではっきりした年月は忘れてしまったが、何がどう狂ったか、私はある講演会で講師をやったことがある。その時のテーマがここに挙げた「蛇と龍」であった。恥ずかしながら準備もしっかりできておらず、骨組みばっかりで、味も素っ気もないものだったと思う。
当時私の心積もりでは、「蛇」は金印の蛇鈕と『三國志』倭人条の記述から「委奴國」の系統を指しており越種、「龍」は『晉書』などの「自謂太伯之後」から「女王國」を指し呉系統であると考えていた。
今もその構図は変わらないが、倭人の定義も相当あいまいだったし、「龍」の説明も十分ではなかったので、一人よがりの世界に浸っていただけかもしれない。
それからかなり時間がたってしまったのに、心のどこかで、ずっと苦い後悔がよどんでいたのは確かだ。今なお、主催者にも申しわけなかった気持ちがある。
数年前からこのコラムを書くようになり、その時々の状況を書き記すだけなのに、自分の考えがまとまっていくように感じてきた。書くという行為が、私の雑念を整理せざるを得なくしているのだろう。
まだいたるところで疑問を抱えているし、スペースに限りがあるものの、少しは書き溜めてきたので、いろいろな面で前へ進んだような気もしている。
少しずつではあるが、歴史学についても、私なりに通史の方へ向っていると思う。私の能力や生き方では、むしろこのゆったりしたペースがあっているのかもしれない。
急にあるところから講演会の依頼があった。老人会の集まりで、演目は何でもいいそうだ。主催者と相談してみたが、気楽な会だそうで、目先の変わった題で楽しんでもらうことになった。「蛇と龍」でお伺いしてみると、それでもよいとのことであった。
人生というものは、まことに不可思議なものである。こんな機会ができるとは、思いもよらなかった。うまくいけばの話だが、私にとっては、前回のリベンジの機会を与えられたことになる。
喜ばしいことばかりではない。年を重ねて少しは落ち着いて考えられるようになっているとしても、反応が鈍くなっているから、細かな質疑でちゃんと答えられますかどうか。
7月9日(土)午後1時半から郡上市の小那比というところで開かれますので、興味のある方はお立ち寄り下さい。

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