『説文』入門(57) -銅鐸(上)-

考古学にのめり込もうという訳ではない。最近読んだ冊子に興味を引く記事があったので、私が年来温めていることを合わせ考えてみたくなっただけである。
銅鐸の起源をたどるのは難しい。考古学の成果を引用するのは気が引けるが、今のところ、確かに四川省広漢県の三星堆遺跡から出土した「一号神樹」に関連する「鈴」類がその源流の一つだと考えられる。
神樹と名付けられているように、これが何らかの祭祀に使われていたことは間違いなさそうだ。出土した鈴には実際に舌がついており、音が出るだろうから、鳥形の鈴であれば鳥の、獣のそれであれば獣の音を出したかったのだろう。祭祀に必要な音であったに違いない。これを単なる楽器と定義してよいのかどうか。
これとは時間と距離が隔たってしまうが、周代の記録を紹介したい。楽器と祭祀に関して言えば、『周禮』に「大合樂以致鬼神示」(卷第二十二大司樂)とあり、「聲音」によって神を寄せることができると考えた。鼓、鍾などの管、琴瑟などさまざまな楽器が使われたようだが、「鐸」「鐲」「鐃」などの鈴類は記されていない。
『説文』で「鐸」は「鐸 大鈴也 从金 睪聲 軍灋 五人爲伍 五伍爲兩 兩司馬執鐸」(十四篇上125)である。
「大鈴也」は鈴の大きなもの。「从金 睪聲」は金偏の形声文字で、「睪聲」が声符の解。「軍灋」は「軍法」で、『周禮』を念頭に置いていると思われ、一般に周代から伝わる用法と考えてよかろう。この場合は、軍事用と解せるわけだ。
そこで『周禮』をみると、「辨鼓鐸鐲鐃之用 王執路鼓 諸侯執貴鼓 軍將執晉鼓 師帥執提 旅帥執鼙 卒長執鐃 兩司馬執鐸 公司馬執鐲」(巻第七夏官大司馬職)となっている。長々と引用して恐縮だが、銅鐸本来の性格を探るにはやむを得ない。もう少し頑張ってほしい。
この場合の「鼓 鐸 鐲 鐃」はいずれも軍用で、「路鼓」「貴鼓」などの「鼓」は王侯軍將が指揮の具とし、「鐸」「鐲」「鐃」の鈴類は実戦部隊の長が持つ。
鈴類について言えば、さらに「五人爲伍 五伍爲兩 五兩爲卒」(大司馬職)とする記事がある。
これから「公司馬」が、「伍」の長として、戦場で「鐲」を鳴らし進退を指示すると解せるだろう。同様に「兩司馬」が「兩」の長で「鐸」をもって指示し、「卒長」が「卒」の長で「鐃」をもってする。「鐲」「鐸」「鐃」がこの順序で大きくなっていくような気がする。
『詩經』にも「鉦人伐鼓」の用例があり、毛伝は「鉦以靜之 鼓以動之」だから、やはり「鉦」「鼓」が進退を命じる道具と考えられる。
私は「鐸」が武器そのものではないとしても、祭祀用ではなく、長く軍事用として使われていたと考えている。本邦の考古学ではややこの視点が欠けているのではなかろうか。「金鐸」「木鐸」の違いについては次回に触れたい。