大きな国の小さな戦略

中国が公船を使い継続して尖閣諸島付近における日本国の領海を侵犯している。ロシアや韓国のこともあり、見て見ぬふりはできない。
中国は共産党による一党独裁の国家である。党の路線がほぼそのまま国家の政策として決定される。党と軍もまた一体ないし両輪である。
国軍である人民解放軍の近代化は、まずその巨大な組織を支えることを前提にする。その組織を維持し装備を近代化すること自体、軍事力の強化であり、合理性を得るには戦線の拡大しかありえない。だが、ロシアやインドはそれぞれ核兵器が装備されており、安易な勢力伸長は難しい。
軍の近代化はまた、国内経済の強化に依存する。既に経済発展が軌道に乗りかけており、これを支えるには、エネルギー資源の供給を安定させる必要がある。
チベットやウィグルなどの少数民族を力で抑えてきたのは、中国としての統一を命題とすると共に、チベットには大規模な銅、亜鉛などの鉱床が、ウィグルには石油や天然ガスなど豊富な資源があるからだ。それらもまた中国経済の生命線であり、更に西域や南部地域への前進基地と定義されているだろう。
二十一世紀に入りある程度の経済力を背景にするようになると、西進や南進のみならず、海洋への展開が前面に出ることになった。南シナ海や渤海を始め東シナ海へ進出することが避けられないと感じているのではないか。
自国の石油戦略を最優先させてイランへの経済制裁に加わらないし、一国の核兵器製造すら、石油メジャーの一角を占める好機にしようとしている。今回の尖閣諸島における強引な手法は、この「戦略」の延長にある。領有権を主張し始めたのが石油資源埋蔵の可能性が指摘された七十年代以降に過ぎないからである。経済の根幹に石油があるというわけだ。
日本政府の同島国有化を国家挙げて攻撃のタイミングとしたのは、党内の指導体制が変わる時期に当り、中長期戦略を立てる必要があったからだろうし、空母を投入することが軍拡の象徴として批判される矛先をかわす目的もあっただろう。攻撃は最大の防御になる。
反日デモが党の示唆や指導のもとで行われ、報酬まで支払われることがあると云う。また上級党員への賄賂が横行していると言うし、デモ参加者が暴徒化し破壊行為をしながら、これに便乗して労働者が日本企業へ賃上げを要求している。こんな「労働運動」が認められるはずもない。当然ながら、一党独裁では、法が機能する国家にはなり難い。
一方で漢民族内に相当な経済格差があり、他方で少数民族との格差も顕著になってきた。かくのごとき中国国内の事情が侵犯の言い訳にはならない。解放軍が独り歩きし、漢民族解放軍ないし富裕層や一部党員の解放軍になっていないか心配している。

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