牛肉の色

我が家でさほど牛肉が食えるわけではないが、気になることがある。近頃の牛肉は色が薄くなっているのではないか。私の記憶が正しければ、ここ三四十年の間で店頭に並ぶ牛肉が徐々に小豆色から赤へ、赤からピンクへ移り変わってきたように思う。
肉自身の鮮度や切った後の時間がそれぞれ異なるだろうから一概には言えまいが、牛肉全体の色が薄くなってきたという実感がある。ひそかに抱いていたこの疑問を、近頃、しっかり裏打ちしてくれる意見を聞くことができた。少し自信が出てきたので、ここで披露してみたい。
私にとって、旨そうに見える色はサシが少なくて、新鮮な小豆色をしているものである。恐らく鉄分がしっかりあるので、色が濃くなるのだろう。肉の方が、植物より、鉄分の吸収がよいと聞いたことがある。
私は殆どすべての部位で、A5、A4ランクなど、多くサシが入りピンク色に近いものは避けている。我が家の経済で入手困難というだけではない。私には、一面にサシが入っている肉が病的に見えて、とても旨そうには見えないからである。また筋の周りにべったり脂肪のついたものも、実際には堅くて、味がない気がする。これらはデンプン質の飼料が多く、牛が運動不足であることが原因かもしれない。
それに「綺麗な赤ないしピンク色」を出すのに、飼料の中の鉄分をひかえ、ビタミン類を調節しているという話も聞く。人でも同じことだが、ビタミン類が不足すると脚気になりやすく、膝に水が溜まりやすくなる。近頃、膝に水が溜まった牛が多いらしい。病気として発症するぎりぎりのタイミングで屠殺すれば、肉色が薄くなるという。
これらは、消費者が「柔らかく」て「綺麗な色」を好むことに起因しているだろう。だが、私は肉に柔らかさやいわゆる綺麗な色を求めていない。
とは言え、あまりに肉の繊維が荒く、熱を加えるとすぐに肉汁が出てしまうものは勘弁してほしい。こういったものは、すぐに堅くなり、かすかすになってしまう。インドは牛肉を食べない国だが、外国人が食べられる所もある。場所を選べばそれ相当の肉が食えるだろうが、私の懐具合からすれば行き先は限られている。何十回噛んでも、うまみの出てこない肉を食べていた。
やはり、じっくり噛めば適度に肉汁が出てくるものが上等に思える。脂肪が解けて「肉汁」と感じるものではない。脂肪分が多いと、肉の味を薄め、くどくなる。
牛肉が、豚肉のように、薄いピンクが綺麗な色だと考えられるようになったのはいつごろからだろう。これに合わせて鉄分やビタミン類を減らし、不健全な牛を増やしているとすれば、消費者が自らを縛っていることにならないか。例え少しでも、やはり健康な牛を、味わって食べたいものだ。

前の記事

長雨

次の記事

避難訓練