引き算と料理
これまで飽きもせず白飯を食べてきた。振り返ってみれば、すっかり食の傾向が変わってしまった。
私に料理文化を高尚に述べる力量はない。はっきりしないけれども、調理法には引き算と足し算があり、近頃世の中は足し算のそれが多くなってきた気がしている。
まずは引き算から。買い物して、例えば千円でおつりを630円貰う場面を想定してみよう。日本では、おつりはたいてい一括するか、別々にするなら500円、100円、10円の順に手渡されるのではなかろうか。
これは買い手と売り手が、それぞれ1000-370=630の引き算をして、おつりが630円だと了解することが前提にある。別々に渡す時には、主となる500円硬貨からはじめる。大きな仕事をから片付け、最後に微調整する方法に見える。
逆の考え方もある。370円の買い物をしたのだから、まず10円硬貨を三枚渡して400円とし、次に100円硬貨で500円、最後に500円硬貨で合計1000円とする。これは足し算の確かめ方で、西洋風と言えるかもしれない。
近頃気に入っているのは、ご飯、みそ汁、漬物である。この他、サラダや薄い刺身といった料理が思い浮かぶ。肉や揚げ物は条件がそろわないと食べない。
煮物もごたごたしたものよりは、里芋をイカと煮たり、大根と油揚げなどなど素朴な組み合わせが美味しい。
刺身や鮨は、少しなら食べられる。食べやすくするための調理はしても、魚本来の味を損ないたくない。いつの頃からかタマリは使わなくなった。醤油にしても、素材の良さが分かるように、あっさりした相性がよいものを好む。
近頃では刺身より、煮て食べるのがお気に入りである。また酢で〆たり、漬けにするのも、入手した時にすぐ調理して食材の持ち味を引き出したものがよい。限界があるとしても、素材には拘りたい。複雑な調理をしないからである。鮮度はもちろん、誰が作ったかを含めて産地も気になる。
若い時には、カレーやハヤシライスなど、多様な材料に色々な香辛料を加えたものが好みだった。これらは素材を生かすのは同じとしても、いわゆるごった煮で、複雑な味を楽しむ。ケーキなども同様で、様々な味を加えて豊かさを目指しているものが高級に見えた。どこでも若者なら、こういうメニューを好むに違いない。言わば足し算の料理である。
少しばかり気負って言うならば、日本の伝統料理は素材のよさをシンプルに楽しむことを最上とするのではないか。言わば引き算の料理法である。
近代化されるにつれ、日本でも足し算の料理が増えてきた。皆さんなら、オムハヤシやソバメシはご存知でしょう。