なべばい

平仮名で「なべばい」と入力すると、赤い波線が引かれる。ワードでは修正ないし校正が必要な語と認識している。
私もまた長年全く同じ状況である。分かりもしないのに慌てて書く必要もないが、なぜかゴールが頭をよぎる。ここで今までの軌跡を辿ってみれば、誰かの何かの足しになるかもしれないので触れてみる。
なべばいは那比にある。那比川の左岸にあって切り立った崖地になっている。那比川は亀尾島川の支流だが、水量の多い清流である。道路と川の間の狭い土地に週末だけ開ける店があり、旬の農産物を中心に、那比の物産が並んでいる。初夏だったかにメダカを売っていた。ここからは見晴らしがよく、高賀山がよく見える。ここで那比川に架かる橋を渡れば万場である。
長良川本流にあたる大和万場は白山信仰の玄関口にあたるから、ここもまた高賀山信仰の入り口と考えられるかもしれない。
これらから「なべばい」を「なべ-ばい」と解し、「なべーはい」から「並べ-拝い」へ遡りたくなる。「並べ」は副詞「並べて」の一部、「拝(は)い」は動詞「拝(はい)す」の語幹とみるわけだ。
なべばいから新宮、本宮は遠くない。古くは那比川の右岸を通る道が主要だったと思われる。ここから高賀山を見上げて一拝し、橋を渡って万場へ行ったのではあるまいか。これが一つ目の解釈。
今立派な道が左岸に通じているものの、なべばいの崖地は巨大なホキで難所だったことは間違いあるまい。
私は「崖(がけ)」の語源について、「欠け」も候補の一つになると考えている。岩が風化によって欠けていく。落ちてくると小さな石でも危ないのに、切り立った岩場から大きな石が落ちてくるのは脅威である。
この辺りで「皿」や「貝」などは、異論もあるが、一応崩壊地名に関連すると考えられている。削られた形を連想するからかもしれない。
これから私もまた「なべ(鍋)-ばい(梅)」の可能性を考えている。これが二つ目の解釈。鍋は深くえぐられた岩場で訓、「バイ」は梅(うめ)の音だから湯桶読みである。郡上の地名で「梅」のつく場所は土砂崩れなどで崩壊し、田畑などが「埋め」られたと解されることがある。また古くから地名に重箱読みや湯桶読みがみられるようで、『和名抄』武蔵國荏原郡条の「滿田」に「上音下訓」となっており、「マンた」ないし「マンだ」あたりに読めそうだ。
いつ頃からなべばいと呼ばれているのか、史料の裏付けがなく、はっきりしていない。一押しは第一の解だが、これら以外にもアイデアが生まれそうな気がしている。

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