沢庵漬け

ここら辺りで漬物といえば大根、白菜、蕪が思い浮ぶ。どれも馴染みがあり、我が家の食卓でもこの時期なら毎日どれかをたべているという具合だ。

我が家では白菜や蕪を漬ける事があっても、沢庵は漬けたことがない。大根やその他の材料をそろえるのが大変だし、漬けるにも相当技術がいる。更に、天候に左右されるだろうから運も味方につける必要がある。自分が作るとなれば、気が遠くなる。そんなこんなで、友人の百姓から頂くことはあっても、それ以外はこれまでずっと買ってきた。

この間友人宅を訪れた際、庭に止まっていた軽トラックの荷台に干し上がった大根の山が積まれていた。葉っぱが付いたままだったので乾燥するのに使ったのだろう。彼のところでは更に丸棒でしごくそうだ。繊維を断ち切って、食べ易くするのだろうか。一緒に何と漬けるかは聞かなかったが、茄子の葉は気に入らないそうである。

数日後、また別の友人宅を訪れたときのこと。庭先で奥さんが大根を紐で括る作業をされていた。すっかり洗って土をおとし、水分をふきとったものだろう。葉っぱは切ってあった。首の方が薄い緑でそこから下は真っ白なみずみずしい大根だった。

聞くと、家の横にある畑で収穫したものだと言う。スマホを覗きながら、手を休めずに作業をしていた。画面を見るとユーチューブらしく、大根の括り方を教えるものだった。干し上がって細くなっても紐が緩まないそうな。そう言えば、家の畑側に物干しがかけられ、既に五本一組にされた大根が何組かぶら下がっている。

これまでは大根がうまくできず漬けることができなかったが、今年は結構大きく成長して嬉しそうである。漬け方も先達に聞いて頭に入っているようだ。一緒に漬けるのは柿の皮や葉、茄子の葉、蜜柑や林檎の皮などが候補らしい。クチナシは庭木としてあるので問題ないそうな。

美味いにも色々ある。高価で滅多に口にできないものなら普段とは異質なおいしさだろうし、旬のものを食べるおいしさもあろう。また食材や味付けのみならず、その食べ物にどれほど深く関わってきたかが調味料になることもある。好きでない物でも自分が関与すれば別の味がするものだ。

彼らが畑で栽培する苦労や収穫を喜ぶ姿が目に浮かぶ。この点はいくら年をとっても変わるまい。これを自分たちの流儀で漬け、長きに亘って家族が食べるわけだから、隅々まで因縁が詰まっている。沢庵を見れば共にやった作業が思い浮かぶことになり、寒さに立ち向かえるほど心豊かである。さぞかしうまいだろう。

郡上と言っても広い。八幡は寄せ集めの街なので、出身地によっても少しずつ漬け方が違うようだ。周りの話を少しばかり拾ってみた。

                                              髭じいさん

前の記事

ニットの帽子

次の記事

温泉旅行