尾根について

山家に住むと、どうしても山に関連する話が多くなる。懸案となっている「名広(なびろ)」という地名については分からないことだらけだが、ここらあたりで一息入れてみたい。

地名に詳しい友人が突然、「名広」は「根広(ねびろ)」が語源でないかと言い出した。彼の住む那比に「横根(よこね)」という地区があり、これがヒントになったらしい。なだらかになった山裾から更に平らになったところを「根(ね)」と言う。山裾にそって横に長いので「横根」と言うのでないかという分析である。「名広」を勝手に文化地名と想像していたので、不意をつかれたように思った。

「根」は植物の根を連想すれば、ここから山が立ち上がっていくわけだから、確かに自然な命名である。これに対し、両側に谷をもつ盛り上がった地形を「尾」という。無論、山の稜線も尾である。八幡で言えば「尾崎(おさき)」という地区があり、「尾の先」と理解されている。

「尾根」は山々が続く地形で、連続した山稜を言うことが多いのではあるまいか。これまで私もそのように理解していた。だが「尾根」が「尾-根」の合成語だとすると意味合いが異なってくる。「尾根」が「尾の根」ということで、根の近くで登りやすい地点があれば尾への登り口になる。谷を遡って行くのは、稜線に近づくにつれて傾斜が急になり、危険なことが多い。よって尾根又は尾先から尾へ取りついてきたのではあるまいか。また「尾から根へ」なら、下山口という意味も考えられる。

岐阜県には「根尾」という明媚な地区がある。根尾断層の名で思い浮かぶ人がいるかも知れない。かつてこの辺りの断層がずれて地震がおこり、大きな被害を出したことがある。この「根尾」もまた「根-尾」と考えてみたい。語順そのままで「根から尾へ」とし、尾への登り口と解せないか。

これでよければ、「根広(ねびろ)」は山際にあって山への入り口となる広い土地という意味になる。確かにこの地区は安久田、西和良への通路になっていたようで、日吉神社は安久田から移したと言われている。「名広」は殆ど記録のない旧地名で、範囲すら特定できていない。伝承では結構広い範囲を指しているので、「広」は「広い」でよいように思われる。

まだ難関が残っている。現状、「根広(ねびろ)」から「名広(なびろ)」への音変化について案がない。郡上が東部方言の西端にあたるのでこれが関連していることが考えられるものの話が遠い。「根」という音を嫌って、好ましい地名に変えたというのも根拠が薄弱である。今後の課題としておく。                                              髭じいさん

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