しやうりやうばつた

題名だけで何を書こうとしているか見当のつく人は少ないかも知れない。私は子供が女の子二人だったからか、バッタやカマキリを捕まえに行った記憶がない。孫の代に男の子が生まれ、山の中やら公園へ出かけて虫取りをやることはあった。

パソコンを置く台の右手にガラス障子があり、メモが何枚か張り付けてある。その一枚に末の孫が書いた「春になったらかまきりおじーちゃんがつかまえる」というのがある。句読点がないので読みにくいが、「春になったらカマキリを捕まえて欲しい」という内容である。今はどうか分からないけれども、これを残した当時はカマキリにはまっていた。女の子なのにバッタはおろかカマキリをも恐れないので、協力を惜しまないようになった。餌となるバッタを取りに行ったものだ。それ以後ずっと散歩の途中でも昆虫が気になり叢をじっと見ることがある。

振り返ってみると私は友達の少ない少年だったらしく、一人外で遊ぶことが多かった。トンボを追いかけたり、蛙や蛇などで遊んでいたが、バッタのことははっきりとは覚えていない。記憶に残っているのはトノサマバッタとショウリョウバッタぐらい。「トノサマバッタ」は漢語で「蝗」とみてよさそうだが、勝手に「殿様バッタ」と解し、何となくバッタの王様みたいに考えてきた。これが正しいのかどうか知らない。「ショウリョウバッタ」も「精霊バッタ」としてなぜか「精霊流し」を連想していたが、旧盆あたりによく見るからそう名付けられたと思い込んでいた。またショウリョウバッタの雌の形が精霊流しの船に似ているからという説もあるらしい。とちらも俗説の評価になっている。

それでは「ショウリョウバッタ」の語源は何かというと、まだはっきりしたものを見ていない。『説文』蟲部をおさらいしていると偶然に「螇 螇鹿 蛁尞也 从虫 奚聲」(十三篇上345)とい文に行き当たった。ここで書かれている「蛁尞」は「ショウリョウバッタ」と解されることが多い。「蛁尞」の音を確かめると「シヤウリヤウ」辺りに読めそうなので、これに対応するかも知れない。してみると、相当古い淵源を持つ語となる。いつ頃本邦に入ってきたのかよく分からないけれども、「精霊」という概念と重なったのは間違いあるまいから存外古い用語なのかもしれない。

「精霊(シヤウリヤウ)」は呉音で、仏教に関連する。伝来に近い時点で「蛁尞」が「精霊」に結びつき、仮借字として認識されたとすれば、語源として「蛁尞(シヤウリヤウ)」も候補になりそうだ。「精霊」には「亡者の霊魂」という義があるので「バッタ」を加えたと考えるわけだ。単なる思い付きで根拠は薄いけれども、頭から離れないので書いておく。「ショウリョウバッタ」は又「ショウジョウバッタ」と呼ばれることがあるし、今回は残念ながら「バッタ」の語源まで行きつかなかった。機会があればまた考えてみたい。                                               髭じいさん

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