白鷺

靑鷺なら年中見ている気がする。川辺を歩いていれば、向こう岸で魚をつついていることが多い。近くで見ることが少ないので、よほど用心深い鳥なのかもしれない。

昨日は朝早くから、気の進まないところへ行ってきた。病院である。今回は付き添いなので私についてはご心配なく。

早くから雪かきをしている音がする。表へ出ると、隣の仁が路上の雪を丁寧にかいている。夜のうちにかなり降ったようだ。仕事の帰りに入り口辺りだけどけていたが、いつの間にやら相当積もっている。今日は出かけなければならないので手伝えない。幸い天気がよくて暖かい朝だった。表で一言二言挨拶を交わし、歩いてバス停まで行く。途中やっぱり雪かきをしている町内の人と雪の事やら何やら話して、すんなりとは行けない。

旧庁舎辺りで目の前が開けると、辺りはすっかり雪景色でかなり積もっている。八幡でこれだけ降っていれば上保筋や吉田川上流域では大雪だったかもしれない。

暫く待っていると突然大きな鳥が下流へ向かって飛んで行った。晴れてはいたが、西北には薄い雪雲が浮かんでおり、山も川も真っ白だ。目を凝らして見るとやっぱり白鷺である。青い空に一部薄い雪雲、これに紛れるかのように飛ぶ白鷺。白い世界に白い鳥だからすぐに見失ってしまった。

視点をさげると、大きな柿の木に小さな実が無数についており完熟して赤い。今年は豊作のようで、小鳥も食べきれないとみえ、遅くまで残っている。実の上はやはり雪が積もっているが、下は燃えるような赤である。雪に濡れて深い赤に存在感があった。何がしか心惹かれて雪中を木まで歩き、近くにある実を二つ小枝ごと取って戻る。渋柿だが、ここらで言う「じゅくし、ずくし」となっており、そのまま一つ口に入れた。甘くて芳醇な味がした。奥の方で微かに渋みを感じるのも、甘さを引き立てるようで美味かった。

何故かもう一個は手にしたままバスに乗る。病院に着いてからも長い待ち時間ずっと手にしていたので大分乾いていた。いよいよ順番が来たあたりで、皮が破れゼリーが出てきた。手に付いた果汁を舐めていると、診療中これに気づいた医師がティッシュペーパーを出してくれる。看護師も含めひとしきり柿の話になったのは緊張感を緩めるに役立ったかもしれない。

寝る前にもう一度思い浮かべてみた。青い空に一面の雪景色、突然目に入った白鷺、その下に雪を被った赤い柿、そして黒い長靴。時間が経ってから感動することもあるのだな。走馬灯に描いておきたい。                                               髭じいさん

前の記事

樅について気になること

次の記事

古代信仰を時間軸へ