那比

天気が良ければ、毎週那比の喫茶店へ通っている。どうかすると雪の降る冬場でも、路面に雪が無さそうならバイクで出かける。車ならまだしもバイクとなると結構不安がある。こんなことまでして出かける歳でもなくなってきた。そろそろ限界に近付いているのは実感している。なぜこんなことを続けるのかもうはっきりした理由が分からなくなってきたが、一つには那比という地名のヒントを得たいというのがある。

長年取り組んできたのに方向性すらつかめない有様で、このまま終わりそうな気分になってきたので、少しこれまでの経緯を書いておこうと思う。

まず「甘南備、神南備(かんなび)」に関連するだろうと考えた。那比は高賀山六社の新宮、本宮があり信仰の篤いところだ。 

ところが那比の「比」は仮名とすると甲類であり、「備」は乙類だから対応しない。また「比」は仮名では「ひ」であって「び」ではない。後者に関しては表記が「那比(なひ)」であっても連濁によって有声音になったと考えればよいかもしれない。実際、「那毘(なび)」と記す史料があったと思う。

『播磨風土記』賀古郡と印南郡条に「南毘都麻(なびつま)」という例がある。この場合の「毘」も甲類だから、神南備(かんなび)の「備」とは区別すべきとなる。

義の方からみると、私は「神南備(かん-なび)」「南毘都麻(なび-つま)」の「なび」はいずれも「隠」だと解釈している。「隠(な)ぶ」(自動詞、バ行四段)の連用形が名詞になったのではなかろうか。「隠(なば)る」にも関連しそうだ。

「神南備(かんなび)」なら「神が隠れる」「神が鎮座する」、「南毘都麻(なびつま)」なら「密かに隠れた妻」と言う具合に考えればそれなりに分かる。

つまり義からすれば、「那比」は「神南備」で「神の隠れた」とも解釈できる。「ひ」「び」の甲類、乙類に関して言えば、『古事記』の仮名成立時に、方言ではその区別が本来はっきりしていなかったか、平安時代前中期あたりで怪しくなったと考えられないか。

「那比」の場合はその両方が考えられるのであって、語源がはっきりしなくなってから採用された表記だったかもしれない。これでよければ、「那比」は「神南備(かんなび)」であって、神の隠れる地つまり神の鎮座する神聖な地を意味していることになる。

新宮、本宮は熊野信仰を連想させるが、本来の産土は「那比大神」となっている。これでは固有名が特定できないが、古来より那比の村々を密やかに守ってくれる聖なる神なのではないか。                                             髭じいさん

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