苦いは夏の味

悲しいことや辛いことがあれば落ちついて味を楽しめないし、心配事が頭の中一杯に溢れるような場合も同じである。貧しい年寄りではあるが、それほど痛む所もないし、心配事より楽しみな方が多い。

毎日、暑いですね。数年前から我が家の居間でもクーラーが稼働しており、快適な夏を過ごせている。とは言え、私の部屋である二階へ上がると、灼熱地獄と言っても過言ではない。

この辺りは結構雪が多いので、屋根を軽くするためにトタン葺きにする家が多い。恐らくはそういうような訳で優秀な板金屋があちこちにあり、町を支えている。ただ、トタンは熱を通すので二階全体を温めることになり、その熱気が夜中になってもさめない。一日中窓や戸を開け放していても、その暑さたるや年を取った身ではなかなか耐え難い。そこで、寝る前に適当な塩分と水分を補給するようにしている。私は熱中症になりかけたことがあり、そのしんどさを経験しているので、用心に越したことはない。

かくして、この過酷な暑さの中でもなんとか生きている。生きていれば、腹が減る。何故か今年は素麺を食べることが少ない。夏場は冷たくて、のど越しのよい素麺やソバを食べることが多い。

この間から何回かおかずにゴーヤチャンプルーみたいな炒めものを食べた。今年初めてゴーヤを食べた時には、その苦さが新鮮だった。一瞬、拒否反応が起こりそうになった。いや待てよ、この苦さこそ求めていたものではないか。食べ進めるうちに、落ち着いてきた。

私はピーマンが苦手だったことがある。小学生の時だった気がするが、確かでない。私には相当苦かった。家族が多かったから、私に配慮して食べ易いようにしてくれることはなかった。それで用意してくれたものを食べる外ない。

たまたま、お浸しにしてくれたことがあった。短冊に切って軽く湯に通して水をきり、カツオの削り節を載せただけだったが、妙に美味しかった。元来ほうれん草や小松菜のお浸しが好物だったので、試しに作ってくれたのかも知れない。これ以後、ピーマンを普通に食べられるようになった。

夏場に苦いと言えばビールを思い出す。仕事終わりに皆で飲んだり、帰宅して風呂上りの一杯は格別である。今はそれ程ではないけれども、子供たちの帰郷中はなぜか自然と飲める。

人は凡そ五味を感じるそうな。酸、辛、鹹、苦、甘という事になっている。五行に当てはめるのは流行らないが、私は何故か酸は春、苦は夏のイメージを持っている。

『周禮』天官瘍醫によれば「以苦養氣」とあり、古くから苦みは気を養うとされてきた。                                             髭じいさん

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