荒城(あらき)

飛騨の旧吉城郡はもと荒城郡と称されていた。アラキは草木を焼いた後の一年目にあたる畑を言う。これは岐阜県のみならず広い範囲で使われている用語らしく、辞書にもそのように載っている。ところがアラキはこの他の意味に使われることも多く、地名の意味を特定するのは容易でない。主に使われているのは、

1 殯(もがり)。死体を棺に納めて、しばらく仮に置いておくこと、又その場所。

2 新墓(にいはか)。新しい墓、人を埋葬したばかりの墓。

3 新墾(にいはり)。新たに開墾すること、又その土地。

以上である。これに加え方言として更に「新たに開墾した畑」、「焼き畑の一年目のもの」という定義がある。これは上の例で言えば新墾に近い。

方言で焼き畑は「アラキ」の他に、「アラク」「アラグ」「アラコ」等があるとされる。これらに共通するのは「アラ」である。この場合「アラ」は「荒」を当てることが多いけれども、「あらたに」「あらかじめ」の「あら」とも読める。

それではなぜ「新」ではなく「荒」が使われてきたかだが、私は「荒」の中に「亡」が入っていることに注目している。『説文』で「荒」(一篇下313)は「荒 蕪也 从艸 㠩聲 一曰艸掩地也」、更に「亡」(十二篇下294)は「亡 逃也」となっている。「亡」には死亡、滅亡の意味があるので、原義としてこれを用いたのではないか。「新」が「荒」に合流したと考えるわけだ。

姓で「あらい」は荒井、新井とどちらにも表記される。地名でも「あら-や」が「荒屋」「新屋」、「あら-た」では「荒田」「新田」と両記されることがあり、仮名になっていればどちらとも判別できない。このどちらにも「あらたに」の義があるとすれば用字として無理がない。

私は「アラキ」が焼き畑等として「荒城」と表記される点がしっくりこない。「城」は好字で、既に「忌(き)」「穢れのけ」などが変化したものかもしれない。飛騨地区でかなり見られる「荒木(あらき)」も又一部焼き畑と関連するのではないか。「荒城」「荒木」を同一に語るのは無理があるとしても、仮名とすれば、「城」「忌」「木」は乙類の「き」で共通する。旧吉城郡神岡町にある「荒木谷」などの小字は、「切り出したままの原木」というような意味だけでなく、「新に木をナギ倒す」ないし「木がナギ倒された」というようにも読める。                                              髭じいさん

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