起(おこし)
地名には、中でも各地の小地名である小字には、限りない豊かさある。これまで少しばかり取り上げて私なりの仮説をたててきたが、岐阜県だけでも私の力では到底汲み尽くせない。今回取り上げる「起(おこし)」もまた興味深い背後が隠されている。
最初に結論を述べておくと、「起(おこし)」は「土起こし」「畝起こし」から「畑起こし」「田起こし」へ至ると推定している。
開発地名の種類は多い。新たに田を開いたのであれば、「新田(しんでん)」「しんで」という命名となる。また私の本貫地である播磨(はりま)は、新播(にいばり)が新たに開拓されることだから、「今治(いまばり)」などと同様に、「はり」は大規模に開墾される印象がある。
これらの他にも、これまで取り上げてきた「平(ひら)」や「垣内(かいと)」を加えねばなるまい。
この地には「大平(おおひら)」「高平(たかひら)」等の「平(ひら)」について、一般に言われることのある傾斜地というような地形地名とみるのは難しい。
「平(ひら)」を急傾斜、緩傾斜を含めて傾斜地とするのは、この辺りはどこを見ても傾斜地であって、それぞれを特定できないという難点がある。
私は、これもまた「平(ひら)」は「開(ひらき)」に通ずるように思えてならない。郡上において「平(ひら)」のつく小字は各地にあり、最も多く見られる小地名である。人が住み、周りを徐々に開拓して開墾する。この営為を「ひらき」とし、更に「ひら」へ簡略化されたのではないか。
これと同じ字が使われる「平(たいら、だいら)」と呼ばれる小字も、「平(ひら)」ほどではないが、飛騨、美濃共に散見される。私は、これこそが割合平坦な地を指す地形地名ではないかと考えている。
とすれば、「起(おこし)」「新田(しんでん)」「垣内(かいと)」「新播(にいばり)」等と共に、「平(ひら)」もまた開拓地名ということになる。
それぞれの語源をここで再度検討するわけにもいかないので、「起(おこし)」に焦点を当てると、起こさない農耕が原点にある気がする。つまり、ナギバタと呼ばれる焼き畑から進化しているのではないか。
ナギが「なぎ倒す」、つまり木を切り倒して焼き払い、これで地力を得て稗、黍、粟などを栽培する。焼き畑では種を直播きする。これに対し、「起(おこし)」は土を起こす農耕へ変わったことを示すのではないか。又このあたりに、「うね畑」という地名がある。これは土を深堀して畝を作ることを指すだろう。常畑(じょうばた)への過程を示しているのではなかろうか。
地方性を考慮するにしても、この「起(おこし)」は最も初期の開発地名にならないか。これに続くのが「新播(にいばり)」「平(ひら)」「垣内(かいと)」で、それから「新田(しんでん)」というような順も考えられる。 髭じいさん
