産業
ここでは木工業の再生というテーマを念頭に置いている。都市なら青壮年たちが野心を燃やして新たに産業を興すこともあるだろうが、田舎では難しい。今までの経緯からすれば、多くは伝統の技を継承した者が生業を繫ぐことで精一杯である。
ここ郡上では木工やら織物などは名産と言ってよいぐらいの水準にあるし、印刷やら食品サンプルの分野では草分けの地だ。今回は木工に焦点をあて、現状と課題を探ってみたい。
敗戦後の住宅需要で郡上は潤った。越美南線もそれなりに整備され、各地で集荷された木材を都市部へ運んだ。また至る所に材木屋や製材所が林立し、それぞれの商売も大きかったようである。
八幡町には置屋が何ヶ所かあったり、映画館も数軒あったそうな。政府の奨励もあって、伐採した後に杉やヒノキが植林された。山林地主はこれからも裕福な時代が約束されていると感じていたようである。
ところが住宅需要が一服し、輸入材が増えると、材木の価格がすっかり下がってしまった。以來、木材の価格が振るわなくなって久しい。この辺りでも林業自体がすっかり下火になってしまった。
こうなると木工業も又下火になっていく。かつては同業者が数多くあって木工団地も大々的に作られたほどだったが、徐々に規模が小さくなり、仕事をつなぐために下請けが中心となって、あげく継承する者が減って高齢化することになった。
とは言え事業を続け、それなりに規模を大きくした企業もある。確かにこれも又事実だが、全体として斜陽化したのは否定できまい。
さて現状をみると数社は頑張っている。だが材木屋や製材所などと共に、木工業者もすっかり数を減らし、かつての栄華を思わせるところも少なくなってしまった。残念ながら、これを打開する方策が簡単に見つかるとは思えない。郡上では林産資源の多くが管理されず放置されたものが多く、建築材として既に伐期を逃してしまったものが至る所にある。広葉樹との混淆林になり選択肢が少しずつ増えているとは言え、杉やヒノキばかりの山が目立つ。
条件のよい林で伐採されたとしても、経費が掛かり過ぎて山林地主に残るものはさほど期待できないし、場合によっては赤字になりかねない。こうなっては山へ入って手入れする人も限られる。木工業もまた後継者不足で斜陽化しつつあると言えよう。
公金を注入したところで、根本を変えることはできまい。誠に厳しい状況だが、手をこまねいている訳にはいかない。業者が生き残りをかけて新たな道を切り開くしかなかろう。簡単にアイデアが浮かぶはずもないが、実際に携わっている人がやりたいこと、楽しいことに取り組むことが大事だろう。まずそれぞれ内に秘めた思いを優先して、前向きにやってもらいたい。陰ながら応援したい。 髭じいさん