こだくみ
郡上市の旧明方村小川にある小字だ。仮名地名であり、もう地元でもそれとして由来が伝わっていないのではないか。二三、試行錯誤をやってみて少しばかり手ごたえのある仮説になったので共有することにした。これまでのアプローチを見て頂いて、前後を客観化してみたい。
最初は「こだく-み」と切って、「こだく-見」と解してみた。この辺りで語尾に「見」という文字が使われることが結構あるからだ。ところが「こだく」が皆目見当もつかない。
次に「こ-だくみ」とやってみた。「だくみ」は旧仮名遣いで「たくみ」だろうから、郡上市旧高鷲村に「多工見(たくみ)」という字あり、まったくの仮想というわけでもない。
まず「たくみ」を動詞四段活用「巧む(たくむ)」の連用形「たくみ」が名詞化していると考えてみた。この場合なら、「こ」は「小」になりそうなので、「小たくみ」となってそれなりに意味は伝わる。ただ、これでは土地の特定に至るまいから地名に相応しいとは言えない。
次に「こ-だくみ」と切るのは同じても、「だくみ」を「たくみ(工、匠)」と考えてみた。
高鷲の「多工見(たくみ)」が漢字表記であって仮名ではないことから、地元の解釈が入っている可能性がある。勿論、漢字表記に拘るのはご法度の場合もあるが、ここでは表記に原形が残っていると解してみた。
これでよければ、「こ」は「木(き、こ)」とみて、「こだくみ」は「木工」ということになる。
古くは、律令制で「木工寮(モクリョウ)」があり、又「こだくみ-の-つかさ」と読まれる。「木工」は一字で「杢」とあらわすこともある語で、音訓がそれぞれ「モク」「こだくみ」だったことになる。
旧明方村、旧高須村ともに郡上郡内だが、いずれも飛騨に隣接する地であることから、「飛騨の匠(たくみ)」が思い浮ぶ。彼らは平城京の建設にも関わったとされるので、由緒がしっかりしている用語だ。「こだくみ」は、小川が飛騨へ職人を供給していたというような土地であれば地名として残ることもあろう。また郡上郡衙の職制に関連するとも考えられる。
更に私は、この地のあちこちに伝承する木地師との関連も排除できずにいる。
木地師はまず轆轤に関連して椀や盆などの丸物を作ったことで知られているが、その他にも折敷地(おしきぢ-箱膳)などの木工製品や漆塗りなどにも長けていた。更に彼らは木工から大工仕事へも特化したようで、宮大工の源流になった例も聞いている。
以上、「こだくみ」は「こ-だくみ」で、「木(こ)-工(たくみ)」と解し、その淵源が奈良時代ないし平安時代まで遡れる可能性のあることを示した。用例が少なく、いかにも説得力に欠けるので、順次これを集めていく所存である。 髭じいさん
