人質

物騒なテーマである。だが、何も直接犯罪に関わることを書こうとするわけではない。
郡上は浄土真宗が広く、深く染み込んだ所である。主たる集落には必ず寺がある。まあ、至る所に寺があると言っても過言ではあるまい。江戸時代の寺請け制で、戸籍の管理や道中手形の発行などの役所仕事をしていたから、各地に寺がうまく散らばっているとも言える。
これとは別に、ここは特に蓮如以来、真宗と長いつき合いがあり、信仰心も厚い所である。どちらかと言えば、東本願寺の系統が強く、西本願寺系は少ない。
数年前のことであったか、本願寺の棟木が折れてこれを修理する話があった。ことの序かどうか、瓦の葺きかえも同時にやったらしい。本願寺は、この資金の一部を地方の寺に割り当て、おおよそ檀家の数に合わせて集めたという。
郡上各地の寺にしてみれば、やむを得ない仕儀であり、檀家から金を集めるより他ない。各寺にもそれぞれ事情があり、やれ屋根を直すとか、やれ本堂が古くなったとか、ひどいものになると火事で全焼したものまである。一昔前には、跡取りの車まで檀家が買ってやるというようなことがあったと聞く。
檀家がこれらの費用を、丸抱えで、面倒をみていたのである。さすがに、最近では庫裏の修理や、個人の費用は坊様が自分で出すことが多くなった。
檀家の信仰心が薄くなったのか、もともと丸抱えに無理があったのかよく分からないが、なんと費用のかさむことだろう。そんなことならやめてしまえと言うのは外からの意見で、実際は先祖の供養とか、葬式の導師を頼むことに意識が行き、なかなか縁が切れないのである。
先祖や近親の亡くなった者が人質になっているという話。

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