暑い。山に囲まれた郡上で暑いのだから、他は推して知るべし。何か涼しい話でもと考えたが、目に見える範囲では山しか見あたらない。
郡上では大日岳、鷲が岳、瓢が岳などの「岳」がつくもの、稚児山、高賀山などの「山(サン)」がつくものが一般に知られている。
今郡上で暮らしているが、私は兵庫県の瀬戸内海に面したところで生まれ育った。兵庫県は、割合面積が広く、日本海にも面している。瀬戸内海側で山といえば六甲山(サン)系が思い浮かぶ。播州平野にはちょっとした丘陵地があり、「高御位山」など「山(やま)」や「丘(おか)」のつくものがある。これに対し日本海側では山も大きく、氷ノ山(セン)や隣県の蒜山(ゼン)などが知られている。山陰では、何と言っても伯耆大山(セン)が有名だ。
このように山の訓読みは「やま」で、音読みは「サン」「セン」の二系統がある。但し、日本は広い。この他にも読み方があるかも知れない。
さて、「サン」「セン」は漢語音であり、列島に入った時期も地域も異なっているように思う。大まかに言うと、後漢代の前半までは「セン」、末から三国時代以後は「サン」が使われていた証拠がある。
だからと言って、この事実をそのまま日本列島に当てはめることはできない。中国の中原で「サン」が使われていても、「セン」が方言として残っていることも十分考慮しなければならない。一般に、須弥山(セン)など仏教用語は五・六世紀に「呉音」として入ってきたとされる。
だとしても、「セン」が山陰地方に広がる音であり、現代まで継続して使われているのは尋常のことでない。仏教との関わりだけで解けるわけでもあるまい。この音に拘ってきた経緯を知りたくなる所以だ。
そこで、山の重要性に鑑みて、この一帯は後漢代の前半以前に大陸人によって植民されたと考えられないだろうか。実年代では、紀元前後又はそれ以前にあたる。この場合は、呉越地方のみならず斉や朝鮮半島を経由した可能性も考えられる。

前の記事

言い訳(2)

次の記事

歴史家の仕事