本末転倒 -『説文解字』入門(2)-

『説文解字』という中国の辞書がある。ほぼ二千年前に、許慎という人物が編集したもので、字形の書ということになっている。
字形というのは言わば漢字の成り立ちを形から六つのタイプに分けることで、彼は五百あまりの部首に分け約一万字をそれぞれ分析している。
六つのタイプというのは象形、会意、形声、指事の四つを主とし、転注、仮借の二つを合わせて六書(りくしょ)と呼ばれている。
六書については、つい最近まで中学校の教科書にも載せられていたが、どうも最近では見当たらない。漢字の練習帳あたりでは、言及されているものもあるようだ。
部首については、現在でもその考え方で多くの漢字辞書がつくられているが、数が大いに異なっているので注意が要る。
どうして私がこの辞書にのめり込んで来たのかは、随分前のことであり、今でははっきりしない。一応東アジアの古代史を勉強しているうちに、この辞書に情報が満載されていたからと自分に納得させている。私は、これを単に辞書とみるのみならず、『史記』や『漢書』などと共に古代史の史料とも考えている。
さて今回は、「本」と「末」について考えてみる。「本」は以前この欄で触れているので、ご記憶の方もおられるでしょう。
「本 木下曰本 從木 從丅」(六篇上147)は「木下曰本」が解で、「從木 從丅」は「木」「丅」の会意字であることを示す。
「末 木上曰末 從木 從丄」(六篇上152)もまた、「從木 從丄」で会意字である。だが、それぞれ「丅」「丄」は「下」「上」を示しており、「本」「末」は指事の字と考えられないこともない。
字形はさておき、「本」は木の下、「末」は木の上の義であるから、本末転倒は木の上下が転倒していることになる。これから、上下や前後の順序が逆になったり、物事の重要度を無視することなどに対して使われる。
前に「公私」というテーマで入門書を書いたが、難しいとのクレームがあり、ここで又入門の入門を書くはめになってしまった。本末転倒になってしまい、誠に申し訳ないと思っている。