碁石の汚れ

私は、碁をうつ。まあ、ヘボの部類に入るといってよい。最近は実戦の機会がへり、ネットで打つぐらいである。たまには、内容がまあまあで印象に残るものがあり、碁盤で並べなおすことがある。
碁石が汚れているのが気になったので、ここ一週間ほど、白石から少しずつ布巾などで拭いている。始めは埃や手の油などをすこし綺麗にすれば気が済んだが、例の如く、そのうち段々熱が入ってきて一つずつ磨くようになってきた。
今思い起こすと、最初はプラスチック製の「石」だった。そのうちガラス製になり、二十年ほど前に一念発起して蛤製の石を手に入れた。私の懐具合からしてよいものを手に入れられるはずもないが、買うときには、それはそれで決心がいったものだ。何年かは真っ白な石で打つ喜びがあったように思う。
その後も、この石を使って実戦を打っていた頃は、失礼にならないよう結構拭っていた。だが碁仇が彼岸へ旅立ったころから実戦を打たなくなり、段々横着になって、最近ではあまりきれいにしていない。いつの間にかこれが当たり前になってしまった。汚れが目立つようになると、やっと拭う気になるという具合だ。
目を凝らしてみると、汚れなどで酸化し、殆どの石の表側に褐色の筋が入っている。激戦の結果か傷のついたものもあるし、中にはカビが入り込み黒ずんでいるものもある。傷ついたものは仕方ないが、さすがに黒ずんだものは心痛んだ。
成り行きなのか鈍らの結果なのか分からないが、板目や正目になっている褐色の年輪のような模様が存外気に入っている。或はこれが自然素材の良さかもしれない。
私の人生がカビで黒ずんでいるのか、それなりに斑模様になっているのかは拭ってみないと分からない。自らの汚れが生んだ結果だから、いずれでも受け入れるつもりである。