小さな食物連鎖

我が家の庭に手水鉢がある。かなりしっかりしたもので、恐らくこの家が建てられた明治初年から置いてあるのではなかろうか。上下水の完備した今ではもう実際には使っていないが、狭い庭の中では確かな存在感がある。
今朝から雨が降っている。晴れていれば町中総出で川掃除をする日だったから、やむを得ず延期ということになった。雨が降るとうっとうしいと言えばうっとうしいが、まだ鎌を砥いでいない私としては、ほっとしている意味もある。
問題は雨があがった後だ。大きな柿の木やら、ドウダンなどが覆って、狭い庭が昆虫の住処になり易い環境になっている。その上、この時期は夏至も過ぎ、気温もどんどん上がっている。手水鉢の水を汲まず放っておくと、すぐにボウフラが湧く。まさに何処からともなく湧いてくるのである。これを放置すると蚊の大群となるので、まめに水を汲むことにしているが、完璧を期すことは難しい。
毎年、蛙がこの手水鉢を訪れる。りっぱなトノサマガエルである。一匹しか見ないこともあるし、複数のときもある。そう言えば、ヤモリも毎年見かける。彼らが、蚊のみならずハエや蛾などを食べてくれていることは分かっている。また、小さな蜘蛛がかなりいて、更に微小なダニなどを退治してくれていることも分かっている。まことに小さな生態系ができあがっていると言っても過言ではあるまい。
昨日、蜥蜴を見た。保護色になっていたので、すぐ近くで見つけた時にはちょっと驚いた。現場を見たことはないが、クモや蛾を食べているのではなかろうか。
真打は蛇である。彼等は我が家の蛙を狙って来るのかもしれない。大型の鳥が入り込めない構造になっており、猫もほとんど見ないので、この生態系の頂点は蛇だろう。私は蛇を見ても割合驚かないが、放置もできないので、なるべく出て行ってもらうことにしている。
一本の木と手水鉢に水がたまることで小宇宙ができ、小さな食物連鎖ができあがっているという話。