眠れぬ夜

このごろいつも寝るのは夜中の二時前後になってしまう。若いときから寝るのが遅く、二時といえども珍しくない。寝つきは悪くない方なのに、なぜか今日は目がさめて眠れない。と言っても、特別の期待や不安があるわけではない。
寝る間を惜しんでする程のこともなかろうに、うつらうつらの状態でやりたいことが次々浮かぶ。朝から激しい労働をするわけでもないし、昼寝をすれば間に合うから、強い力で抑え込み慌てて寝ることもない。
年を取った者なら誰でも安定した生活をし、心穏やかに暮らすことを望むものかもしれない。そのため営々として仕事に励んできた人が多かろう。確かに残りの人生をリラックスして生きていければ夢のようだ。
だが私の場合、若い時からこんなに長生きするとは考えず生きてきた。だからと言うわけでもないだろうが、ろくに準備せずに生きてきたので、老いに直面してただただ戸惑っている。今更あせってみても、新たな能力や機会も簡単に手に入らないだろうし、また若い人たちに背負ってもらい安穏に暮らしたいとも思わない。どうしたものだろう。
心配事は人並みにあるとしても、贅沢な食べ物に拘るわけでもないから、そんなに金はかかるまい。他の欲もほどほどのような気がするし、不満もあるにはあるが、はち切れるほどではない。
幸い今まで大病をすることもなかった。そんなに長生きを目指しているわけではないが、生きている間はなるべく健康でいたい。楽しく過せればそれに越したことはないからだ。しかし、節制が充分ではないから、そうもいかないだろう。どうしてもやり抜きたいテーマがあるとしても、死んでしまえば仕方がない。
愚かなものに限って、できもしないことを心配して今を見失うものだ。まあ、幾らかでも身近な者たちの役に立っている実感があればけっこう楽しく暮せると思う。やっとそれに気づいたので、さあ、ゆっくり寝るとしよう。