獣害

私が畑へ出なくなったのには理由がある。今更こんなことを書いても目を引くとは思えないが、田舎に住むものにとって避けられない問題であり、現状を知ってもらいたいと思い書くことにした。
雪が解けて畑を起こし石灰をまくころになると、杉花粉が飛び、どうしても種を蒔きたいころには、檜の花粉である。作業をしている間に鼻水がタラーリ流れてくる。だがまあ、こんなことはなんでもない。
またこの間に、黄砂やら酸性雨やらでも出鼻をくじかれる。だが、こんなことぐらいでは挫けない。
夏場になると、毎日畑に出かけて草を引くという。私の場合、気が向いた時にしか出かけないから、夢中になって雑草を引いてもきりがない。これにしても、自業自得だと分かっているので誰かを恨むこともないし、除草剤にたよることもない。
私は横着で有機肥料を集めたりすることが充分ではなく、殆ど無機肥料も使わないから、畑が痩せて作物がうまくつくれない。これにしても地力と自分の力を知っているから嘆くことはない。
農薬は使いたくないから、白菜やキャベツは青虫に食われ、小豆も半分以上虫に食われてしまう。まあ、こんなことは私のやり方では当然であるから、へこたれない。
あまり成果も上がらないのに艱難をおして畑に出かけるのは、それぞれの野菜が芽を出し、一雨ごとに成長して、幾ばくかの恵みが得られることを楽しみにしているからだ。
だが、カラスにトウモロコシや瓜をつつかれ、小動物に苺をかじられるあたりから情熱が冷めていくようになる。猿にサツマイモを根こそぎやられるあたりでは、段々頭に血がのぼる。あげく田んぼに猪が出て荒らされる話になると、力が抜けていく。
獣害は、郡上市の場合、八幡や美並など割合南部に偏っているらしい。百姓を生業にしている人なら、こんな甘ったれた理由は言うまいが、私にはダメージが大きかった。今は、畑で格闘している人達をひそかに応援するのみである。

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連理