秋の風

今回は、秋風を取り上げてみる。心地よさが伝えられればいいなあとは思うが、さてどんなものか。
まず思い浮かぶのが、なぜかお盆を過ぎたころの海風である。海水浴もほぼ終わりクラゲが多くなるこの時期になると、熱い風に少し涼しさが混じりはじめ、何か宴が終わりに近づいているような気分になったものだ。年とった今では、やっと焦熱地獄を抜けられる兆しが感じられて、心軽くなるとでも書けばよいのだろうか。
ここ郡上では盆踊りが九月まで続くので、夜になるともうすっかり肌寒くなっており、秋の気配がする。だが昼間は、半袖の腕にあたる風が丁度よい。
私の中では黄金色の田んぼと彼岸花はほぼ一体であり、風の姿を写す稲穂の風紋が好きである。同じ風紋でも、初夏の苗は爽やかさを感じるのに対し、秋の稲穂は重いからか、さらさらという音がしてゆったり動くような気がする。
田んぼの畔に彼岸花が群生している絵が浮かぶ。彼岸花は茎から直接花がついているように見える。従って、蕾のときには柔らかな風をうけても僅かに動くだけだが、花を咲かせるとより滑らかに靡く。根に毒性があるので獣を近づけないという話を聞いたことがある。
柿の葉を落とす風はせわしい。一枚一枚が重いので、バサバサと下に落ちる。十年ほど前なら、庭でこの葉っぱを燃やし焼き芋をしたものだ。近頃、煙がいけないのか火事を出すといけないからか、焚き火を憚る風潮があり、敢えて断行する気になれない。直接触れると肌が冷たくなってしまうので、長袖のセーターを着ている姿が似合う。
私にとって晩秋と言えば、一気に全山の紅葉を散らす風である。木枯らしということになるが、短期間に落としてしまう力はすさまじい。ここまでくれば、薄手でも防風になっているジャンパーを着たくなる。
髪の毛が薄くなったからか、この時期になると頭が冷えるような気がする。今年は、毛糸の帽子でも用意するか。まもなく風に雪が混じるようになると、すっかり冬である。

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