はざこ

どこで暮らそうとも、心さえ開いていれば、驚いたり新鮮に感じたりすることは限りない。これについては歳をとっても変わらない。
私は、あちこちで「はざこ」を見たことがある。「はざこ」はオオサンショウウオのことで、この地ではまた「はんざき」とも呼ばれる。吉田川水系でも、新橋あたりで大物が確認されており、身近な生き物といえそうだ。
「はざこ」は世界最大級の両性類であり、およそ三千万年からほとんど形が変わらず、「生きた化石」と言われる。かたくなに進化を拒んでいるわけだ。これには様々な原因が考えられる。進化論に一石を投ずるテーマになるかもしれない。
1927年に国の天然記念物となり、郡上では和良川水系が生息地として指定された。1932年に西和良の鬼谷(おんだに)川水系、1933年に大和の小間見(こまみ)川水系がそれぞれ追加指定されている。更に1951年に種として天然記念物に認定され、その翌年には特別天然記念物となっている。
つまり、ここ百年で随分出世したわけだ。それ以前は食用にされたようで、昔話ではごちそうに入っている。まことしやかにその味が伝えられているものの、「山椒」が生来の臭いなのか、調理すれば消えるものなのかなどは分からない。
さて、和良川は良好なアユの釣り場として知られているが、和良を紹介するパンフレットには必ず「はざこ」も登場する。その食性は、魚や沢蟹などを一飲みにするそうだ。その性格は獰猛で、近くで動くものには鋭い歯で何でも食いつくとされる。大人でもうかうかできないという。子供たちが割合近くで泳いだりしているので、私などは、どうしても心配してしまう。ただ食いつかれたという話を聞かないから、彼らは適切な距離を知っているのかもしれない。
鬼谷川水系については何度かたどってみたことがあるが、居るという話を聞くだけで、残念ながら細かな情報はない。
小間見川水系のオオサンショウウオは、地元の高校が長年にわたって追跡調査をしている。その生物部が文化祭で発表するレポートを毎年楽しみにしてきた。彼らの話によると、それぞれ個体識別しているそうだ。産卵期は八月から九月までで、夏休みを割いて合宿し、一日中観察するそうである。小間見川でも水害に備えて堰堤をつくっており、生態にかなり影響を与えているらしい。種の保存のためにも、彼らの観察記録は貴重である。
私からすると、「はざこ」の姿は決して美しいものとは言えない。だが、八幡町のある画家が描いたものがなかなかユニークだ。「はざこ」が立ってアマゴを担いだ姿は、なんだか彼らがこの町で市民権を得ているような気さえ起きてくる。来幡のおりにでも、一度ご覧になってはいかがかな。

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