ちちことアジメ

近ごろ孫が川へ通って、ちちことアジメを獲ってくる。
ちちこは、カワヨシノボリのことで、郡上では「ちちこ」と呼ばれている。またアジメはアジメドジョウで、「味女泥鰌」と書くらしい。この辺りでは、どちらもよく知られて珍しいということはない。
夏休みに入り、晴れの日が続くので、彼はほぼ毎日川へ出かける。我が家を基地にして、小駄良川と吉田川の出会いまで出かける。これには何年かにわたる伏線がある。
もともと彼は泳ぎが得意というわけではなかった。水泳教室に通うこともしなかったし、学校のプールで毎年少しずつ級を上げていく程度だった。
従って水泳にしろ魚釣りにしろ、私が川へ連れて行くほかなく、条件がそろうことが中々ないので、それほど行けなかった。泳ぎの達者な子は、友達同士で川へ行く。
学年が上がるにつれて、上手な子は吉田川本流へ行く。近ごろ彼がよく遊ぶ仲間に活発な子がいて、本流の学校橋下にある三角岩から飛び込みをするらしい。
小学校では学校橋から直接飛び込むことは禁止されている。知ってか知らずか、今シーズン橋から飛び込んだ子がいて、あばら骨を何本か折ったと聞いている。
むろん彼も本流で遊びたいが、まだ初心者の域を出ないので、禁止されている。ところがプールでの認定で一足飛びに上がったものだから、私に本流へ行ってもいいかと詰め寄ってくる。
私は、「級がもう一つか二つ上がった時点で考えてみる」と返答している。かような訳で、わりあい人の目もあり、ドンボ(淵)もさほど深くない小駄良川なら、一人で出かけてもよいということになった。
それでも心配なので、時おり覗きに行く。日に日に上達しているようで、けっこうな岩から飛び込んでいる。まだまだ安心できないけれども、これならまずまず。日焼けして見違えるぐらい。なかなかよろしい。
近頃は網を持って出かけ、小魚を獲ってくる。伝統漁法では「ふせ網」を使うらしいが、彼の使っているものはありきたりの網である。それでも、けっこう数をとってくる。川遊びが一歩進んだと言ってよかろう。
どうやら仲間の子から調理の仕方を習ってきたようで、塩もみをしてぬめりをとり、焼いてから煮たり、から揚げにするという。どうしてもやってみたいと言うので、から揚げをやらせてみた。慎重になりすぎてパサパサになったものの、いい味だった。
御存じの方も多かろうが、ここらあたりでは、食材としてちちこやアジメは高級品である。私もそれほど口にできないものなので、何だか不思議な気分になっている。
この調子でいけば、来年は吉田川本流で泳げるようになるかもしれない。