酔っ払い

世は忘年会シーズンらしい。ほんの数年前まで月一で飲み会をしていたが、どういうものか、それも絶えた。近頃は外で酒を飲むと言うことはなくなった。めったに家でも飲まないなから、当然かもしれない。
本日の仕事帰り、道の脇で寝転んでいる人がいる。寒さからか、体を丸めて何やらやっていた。通り過ぎてしまえない気分になって、自転車を止めた。
病人には見えなかったので、たいてい酔っ払いだと思ったが、なにせこの寒さである。このまま寝てしまっては風邪をひくぐらいで収まらないような気がしたので、声をかけた。
丸まっていた彼が私の方を振り向く。どうやら彼はスマホをかまっていたようで、私はとっさには状況が呑み込めず戸惑ったが、なぜかホッとした。意識のあることが分かったからだろう。
話してみると、やはり彼の返答は聞き取りにくく、呂律が回っていない。自分は決して酔ってはいないと言わんばかりにしっかり話そうとする。だが内容が途切れ途切れでよく分からないし、視点も定まらない。やはり相当酩酊しているようだ。
私だって、こんなことは何回も経験している。偉そうなことを言える立場にはない。
ただ自力で帰れるかどうかを確かめておきたいと思い、とりあえず立つように促してみた。しばらく寝転んだままだったらしく、すぐには立てまいと思っていると、ふらつきながら何とかフェンスにもたれるようにして立ちあがった。
立った姿は三十前後といった風情で、背も高く、なかなかハンサムな青年に見えた。派手ではないが、洗練された格好をしており、ファッションにも通じているようだった。
むさい恰好した爺さんがよけいな世話をやいて、かえって彼のプライドを傷つけたかもしれない。
私の顔をみて、しっかりした表情になったように見えた。これですっかり安心し帰ろうとすると、彼から握手を求めてきた。彼がなぜそうしたのか不審だったが、何せ酔っ払いだからなあと思い、私も手を出した。そして私は、別れ際に、彼へ一言告げた。何と言ったと思いますか。
酔っぱらって道端に寝転んでもスマホを弄っているご時世は、私の理解を越えている。たいして興味も湧いてこないがね。
ただ帰宅した後も、彼が無事に帰れたのか気になった。無理にでもタクシーを呼べばよかったか。少なくとも彼の自宅を確かめるべきだったかもしれない。少しばかり心がざわついたのは後悔というやつかもしれない。
私が最後に言ったのは「しっかりしろよ。」ではなく、「死ぬなよ。」でした。どうですか、当たりましたか。

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