火傷

静かに田舎で暮らせばさほど珍しいことは起こらないし、また起こらないことが嬉しい。我が家には変なジンクスがあって、雪かきの道具を片付けるとすぐに雪が降る。まだ朝晩寒い時があるけれども、さすがに四月に入ったし、もう積もることはないだろう。
例年のごとく花粉症がひどくて、今年はまず目から始まった。ひどく擦った覚えがないのに、目が充血して人に指摘されるほどだった。鼻はぐずぐず、喉もいがらっぽい。何とか冬を乗り切ったものの、まだまだ苦難が続く。
こんなことを愚痴ったところでどうにもならない。ちらほら花の便りも聞こえるようになったので、元気を出して、この冬を思い起こしてみた。
雪かきが何度かしんどいことはあったが、腹筋トレーニングのおかげで、腰がひどくだるいという事はなかった。帰宅時に手洗いとうがいを欠かさなかったからか、一度も風邪をひかなかったし、大病で仕事を休むようなことはなかった。
それなりに順調な中、残念なことが一つあった。一月だったと思う。けっこうな火傷を負ってしまったのだ。
私は仕事場で二種類の暖房具を使っている。一つは温風ヒーターで、一つは昔ながらの湯が沸かせる石油ストーブである。昔人間なので、直火の上にヤカンを載せて湯を沸かしながら温まるのが好みである。
寒さ厳しいある夜のこと、火に近づきすぎて、ヤカンを倒し足に熱湯を浴びてしまった。私がかかっただけなので、その点は幸運だった。水で患部を冷やしてみたが、皮がずるっと剥ける。ひどそうなので、その足で病院へ直行した。
当直の医師が応急処置を施してくれた。抗生物質、軟膏、とんぷくの三点を処方していただき、翌朝外科の医師に診てもらうことにして帰ってきた。それから数日は特に病んだ。治癒力が落ちているからだろう、三週間ほど通院した。火傷がふくらはぎと膝の裏なので、足を曲げることもままならない。しばらく自転車を片足で動かしていた。
風呂に入れず、シャワーを浴びる他なかった。雪中であり、我が家の風呂は寒い。いかにも寒いので、患部を浸けないようにして湯に入ろうかなとも思ったが、後の処置が面倒なので、どうしてもその気になれない。てなわけで、この冬は殆んどシャワーで過ごしてしまった。
何と愚かなことをしたのだろうと後悔し、二度とこんなことをやらないぞと決意した。だが、こんな決意など何の役にも立たないことは分かっている。何度も何度もこんなことを繰り返してきた。
今回はよろけたのが直接の原因だが、筋肉が衰えているのを気づかず、若い時と同じように動いたからかもしれない。体力が衰え、注意力が散漫になっているとすれば、バイクの運転も気をつけなければなるまい。

前の記事

餅穴(中)

次の記事

餅穴(下)