いそいそ

ちょっとした晴れ間があり、散歩に出た。外に出ても湿気が多く蒸している。かなりの雨だったので、川の様子も見てみたいという気分になっていた。いつものコースから、吉田川左岸の土手沿いを歩いていると、見慣れてはいるがあまり話さない人が愛宕方面から私の前へ出てきた。恐らく先輩にあたる年齢ではなかろうか。
ちょっとした距離があったし、突然という訳ではないので、景色として受け入れたように思う。ただ、彼はいつもよりいそいそ急ぎ足で歩いていた。その時はなぜ急いでいるのか考えもしなかった。
川は増水していたものの、思ったほど水は出なかったようである。ただ、私が出た時間帯ではそれほどなかっただけらしく。数時間前には1メートルほど水位が上がっていたそうだ。
小学校のあたりで、相当深く掘れており、流れが細くなっている。これから私は、そんなに水が出なかったのだなと早合点してしまった。
堰堤の下辺りで、OB達四五人が疎水を眺めてあれこれ話し中だった。足を止めて一言二言話すのが恒例になっているので、声をかけてみた。本流の方は、ここら辺りでは相当な増水で、川幅も広がっており、途中でした判断が甘かったようである。
疎水は、人が流されないようにか、ところどころ鉄柵で区切られている。一人が泥のついた草を指さした。水位がそこまで達していたことは一目瞭然である。そして鉄柵に草が詰まって、泥水が溢れていたそうな。
そう言えば、この間川掃除があってあちこちで草刈りをしていた。その草が疎水の取り入れ口から入り込んだのだろうか。私は草が取り除かれて順調に水が流れているのを見ただけである。誰が中心にやったのかまでは尋ねなかったが、当たり前のように作業するのが清々しい。
いそいそ歩いていた人がその中に混じっていた。楽しそうに話しているところを見ると、彼も詰まった泥と草を取り除いた経緯を知っていたのだろう。早く仲間のところへ戻りたいという気持ちから、急ぎ足で歩いていたのかもしれない。
余程のことがない限り、彼らは暇ができ次第、集まってはあれこれ話しているようだ。此処とその対岸にある八幡神社横にしっかりしたベンチを用意している。
五六人がたむろすることがあるので、通りにくいと感じる時もある。だが、疎水の川掃除を誰となくやってしまう連中である。子供の時からずっと吉田川に関わってきた人達なのだろう。
これを読んだ人なら、彼らの心根にはたと気づくのではあるまいか。褒められようとしてやったことではなかろう。最早、自然の一部になりきっているかの如くである。
僭越ながら、この場を借りて、私がささやかな表彰状を差し上げたいと思う。

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