テロ

残念ながら古今東西テロの尽きることはないようで、本邦においても数限りない。
かつて燕の刺客である荊軻は始皇帝の懐深くに入り込み暗殺しようとした。秦に圧倒されていた燕は万策尽き、姑息な手段に訴えたのである。
近ごろの教科書にも、キング牧師やジョンレノンの暗殺が取り上げられている。よく知られた話でわざわざここで紹介するまでもないかも知れぬが、簡単に振り返ってみる。キング牧師はアメリカにおける公民権運動を率いたと言われる。彼は運動の手段として暴力を使わなかった。法の改正など一定の成果を挙げ、アメリカの近代化に貢献しただろう。
功績が認められノーベル平和賞を送られたのは1964年、東京オリンピックが行われた年のことである。その後1968年、白人男性によって射殺された。原因が細かく究明されたのかどうか知らないが、動機に血なまぐさい種族主義があったのは間違いあるまい。
ジョンレノンが暗殺されたのもアメリカである。彼の場合、熱狂的なファンが引き金を引いたことになっている。アイドルとして独り占めしたかったのだろうか。
先週、アフガニスタンから悲報が伝えられた。中村哲氏がテロリストの銃弾によって殺害されたという。
どんなことでもセンセーショナルに記事を載せ、売り上げを伸ばそうとするマスコミの姿勢は非難されるだろう。連日、彼に関する記事が溢れている。
彼の家族としては騒がないで欲しいと考えているかもしれないし、私が彼の事績を細かく知っているわけでもない。数年前、テレビのドキュメントで彼を取り上げている番組を見ただけである。
ここで書くのは慎重であるべきだろうが、それでも書かざるを得ない気分である。
何でも彼は医者で、アフガニスタンに赴任し、医療に携わっていた。だが貧困と水不足で、病人が絶えなかった。一旦回復しても、環境が変わらないのでまた悪くなるというような悪循環になることもあった。干ばつで荒れた畑を放棄するものが多く、故郷を捨てたり、テロ組織に入ったりするので治安も良くないというような内容だった。
病気の根本治療には平和と安定した経済が不可欠と考えたかどうか、彼は荒れ地へ水路を開くことを念願し、熱心に地元民を説得して実行に移す。確か番組では、最後に水が流れ始めていたのを覚えている。
最近の報道によると、用水路が開かれた地には畑が広がり、麦などが豊作になっている情景が映し出されていた。あの時よりさらに延伸されたようである。彼がその地に貢献したことは間違いあるまい。それでも暗殺された。背後に外国人は全て侵略者とみる原理主義ないしナショナリズムがあるのかもしれない。

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