蟬の鳴かない夏
もう八月も半ば、お盆の最中である。例年なら徹夜踊りが行われ、人でごった返しするころ。けっこう昼間に観光する人は目にするものの、夜になって大声を交わしながら下駄を鳴らして歩く人はいない。静かである。踊り好きの人は頼りないかもしれない。
同じ静かでも、朝から何だか異質な静かさなのだ。ずっと違和感があった。正体をしっかり認識できたのは今月に入ってからだ。
蟬の鳴き声が聞こえてこない。この時期になると朝早くから煩いほど鳴いていたのに、我が家では耳を澄ましても聞こえてこない。昼間から夕方になってヒグラシの鳴き声もないし、夜も川の音しか聞こえない。
散歩で山道を歩くとそれなりに聞こえてくるが、数も少なく感じるし、鳴き声に元気が無いように思われる。
我が家の庭で抜け殻が月初めに一つ、ついさっき見つけたものが一つで合計二つしか見つかっていない。いつもならこんな数ではない。
どうかすると子石を敷き詰めたところから穴を開けて出てくらい生命力があるのに、抜け殻も小さい気がするし、どうしたのだろう。
そういえば町中を巡行しているオニヤンマも全く見ていない。那比や明宝筋へ出かけた時にも見ていないから寂しい気がする。
蟬にも当たり年のようなことがあるのだろうか。今年はその谷間にあたる年ならそれなりに納得できる。が、そのような経験はない。新型コロナを嫌って自粛しているとも思えないし、原因は梅雨の長雨ぐらいしか思いつかない。
オニヤンマには少しばかり心当たりがある。長く続いた大雨で大川の底がすっかり様変わりしてしまった。石が綺麗になって清々しい気分だが、逆に言えば幼虫がついていた石も大量に流されたことになる。草場もどっぷりつかっており、流されてしまったのかもしれない。
見れないのは寂しいとしても、これだけなら、どこかで大量に発生しているかもしれないので心配するまでもない。
セミの場合は見当がつかない。雨があれほど長く降れば相当な水が地中へしみ込んだことは間違いあるまい。地温が上らないなど、彼らのデリケートな条件を乱してしまったのだろうか。
何人かに確かめたところ、セミが少ないのは我が家の周りだけでなく、島谷地区に亘るようだ。しっかり調べたわけではないけれども、あるいは八幡中心域でそうなのかもしれない。
郡上踊りが中止となり残念な人が多いだろう。私としては静かであることに不満はないが、蟬の声が聞こえないのには違和感がある。