左利きの「矯正」

矯正という題字に問題があるかも知れない。私たちの世代だと、何かと不便なので親に左利きを「矯正」された人が結構いるのではなかろうか。この歳になってみれば、習い性となって身についている人が殆んどだろう。それとも未だに違和感があるのだろうか。ここで取り上げるのは理由がある。

ある中学生が、「自分の成績が上がらないのは、ひょっとすると左利きを右利きに矯正されたからかもしれない」と言い出した。突然だったので、面食らってしまう。ゆっくり理由を訊ねてみると、

「祖父や親の期待に応えて右利きになりたいと思い一生懸命やってきた。それなりに克服してきたが、未だに思わず左を使ってしまうことがある。すかさず注意されるたびに、ストレスがたまるような気がする。それほど上手にならないのは自分に能力が足りないからかもしれない。勉強していても、何となく自信が出てこない」というような内容だったと思う。

箸や鉛筆は右手で使えるようになったが、それでも初めから右利きの人と比べてみると上手とは言えないそうな。ただ、彼はそれなりに左手でも字が書ける。実際に何かの統計で、左利きを矯正した子はやや成績が上がらないというのを見たことがある。勉強している最中でも、書いた字を眺めたりして、なかなか集中できないのかもしれない。のみならず平均寿命も短いとすら言う人もいる。

それでは「矯正」されてきたことを不満に思うかと聞いてみると、親たちの愛情は感じるしそれ自体に文句はないそうだ。もう一歩突っ込んで、「それではお前さんが親になって、もし子供が左利きと分かれば、やっぱり矯正しそうか」と尋ねてみた。

ちょっと困った様子で、「自由にやらせて、矯正しないかもしれない」と応える。やはり相当ストレスを抱えているように思えた。

私はこれまで少年期に右左の認識がなかなか定着しなかったことを書いてきた。中学校に入ってからもフラフラしていたと思う。左利きを矯正された子は、左右の認識が定着しにくいそうだ。私も又、もともとは左利きだったのかも知れない。雑巾を絞ったりするのも逆回りだと指摘されたことがあるし、何かと左をよく使っているかもしれない。ただ、親に強制された記憶は一切ないので、もし「矯正」したとしても自分から進んでやったのだろう。

学校で様々な校則をつくって子供を縛るようなことがあるにしても、世の底流はさにあらず、彼らを伸び伸び育てたい親が大半だろう。職人さんに左利き用のいい道具をたくさん作ってもらいたい。                                              髭じいさん

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