セキレイ

セキレイは川辺にいる鳥で頭や長い尻尾を軽やかに振る。腹が白いものと黄色いものを見かける。背中はどちらも黒い。正しいのかどうか甚だ疑問だが、私の中では白い方をセグロセキレイ、黄色い方をキセキレイと理解している。

散歩に出て川辺で出くわす小鳥と言えばまずこの鳥が思い浮ぶほどで、馴染みがある。そう言えば雀を見ることが少なくなったし、カワセミは一年に一度見ればよい方である。

キセキレイはたまに見るだけで、腹の白いものが多い。どちらにしても、姿は華奢で美しく、しぐさが何となく可愛い。見る回数が多かったころだと、はっきりした輪郭も浮かんだように思うけれども、近頃では見たことが印象に残らない。これを書く気になった時でもその名前が一瞬消えてしまうほどで、もう景色の一部になっている気がする。何となく姿は分かるとしても、似たような小鳥と並べれば、判別できる自信はない。しっかり観察したことがないし、分類や生態を勉強したことがないので、鳴き声はおろか、食性など全く知らない。まだ言葉を交わしたことがない隣人のようなものだ。

これまでセキレイとは相性が良くなかった。川辺を歩いて出くわしても、セキレイが先に気が付けばあわてて飛び去るし、私の方が先に気づいて静かに見ていても気配で分かるらしくすぐ視界から消えてしまう。

私はここのところ朝起きると、屋内でちょっとしたストレッチをしてから外へ出て肩や腰の運動をする。こんなことだけでも結構体がスムーズに動くので、日課にしている。たまに近所の人とあいさつを交わしたり、通勤中の知り合いと立ち話をしたりする。

数日前だったか私がゆっくり運動をしていると、腹がオレンジ色の小鳥がすぐ前に止まって私を観察しているのに気付いた。名前は知らない。渡り鳥かも知れない。その直後だったと思う。視界にセキレイが目に入った。いつもなら私を見ると慌てて飛び去ろうとするのに、その時はなぜかゆっくり歩いてこちらに向かってくる。私の方は運動を続けながら、逃げないのは珍しいなあと思っていると、何事もないかの如く私のすぐ傍に近づいてくる。私の方はちょっとばかり驚き、何となく嬉しい気分になったものの、大人しく運動を続けていると、また何事も無いようにそのまま通り過ぎて結構行ってから飛び上った。

あのセキレイは若くて怖さ知らずだったのか、単に私が目に入らなかったのか。どちらにしろ私を警戒するわけでもなく、自然に出会って何事もなく去っていったという印象で、何度思い出してもフレッシュである。早起きは三文の得というやつか。今までのことを思うと、奇遇に思えたのでこれを書いている。                                               髭じいさん

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