トマト農家

大学卒業に近かったと思う。彼は突然、農家をやると言い出し、勉強だか研修を二年やると言う。二三年前のことだった。確か彼は考古学を目指していたように記憶している。なぜそんな決心をしたのかは聞いていないし、その後彼に会ったかどうかも覚えていない。私の中では、研修中ということで定着していた。

これまた突然、彼が一人で私の前に現れる。手にトマトを一個持ち、私に差し出す。勿論顏や声に覚えはあるものの、一瞬名前も思い出さず、うろたえる。それでもまあ、その内思い出すだろうということで話を始めた。

既に研修だかを終え、明宝の寒水でハウスを構え、トマトを栽培していると言う。事前情報が全くなかったので、彼の話を聞くことにした。彼の実家が美並にあることは知っていたが、寒水までかなり距離がある。

寒水でトマトの専業農家をやって実績のある方の下手にハウスがあるらしい。互いにどんな関係なのか詳しい話がなかったので、私もそのままスルーした。恐らくは、その農家さんにおんぶにだっこの状態で頼っているのだろう。

現状は一反ほどの規模で、実際に出荷しているそうな。目標らしい金額についても触れていたが、あまり実感が持てなかった。

繁忙期には母親に手伝ってもらっているらしい。順調に出荷を続けられるようになると、やれるような気がするのだろう、ぼちぼち手ごたえを掴みかけているように見えた。

彼の置かれている状況は容易ではない。特に山間地農業が置かれている現状は苛酷であり、専業でやれている人はほんの一握りである。

彼にとって、こんなことは織り込み済みだろうが、それにしても容易な道とは言えない。

まずは規模を大きくしていく方向で考えているようだ。確かに専業を目指す上では避けられまい。来期からは二反にしたいそうで、土地の目途はついていると言う。場所とかの詳しいことは聞かなかったが、よほど慎重に考えないと、限りある手間を分散してしまい、手に負えないことになる。繁忙期の忙しさも、簡単に考えれば、まあ二倍になるわけだ。

仮にあれもこれもうまく回ったとしても、これで自営できるわけでもない。初期費用もそうだし、百姓仕事は手間の割に金にならない印象がある。まして彼の理想とする農業があるだろうから、実際には妥協を迫られる場面が何度も出てきそうである。

若者がやりたいことをやるのは当然であるし、年寄りとしても応援したい。彼の親達もバックアップしてくれているらしい。彼が難しい道を選んでいることは地域の宝であるし目覚ましいが、危いなあというのが実感である。まずはしっかり体を作ることかな。                                               髭じいさん

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